米国では国内の麻しん伝播はないが、ウイルスの輸入が続いている。
症例Aは23カ月男児で、2009年3月26日に発症し、28に地に39.2℃の熱、咳、感冒様症状、発疹を示し、ペンシルベニア州のA病院救急部門に麻しん疑いのため隔離された。症例Bは4歳の症例Aの兄で、3月23日に発症し、発熱、咳、感冒様症状、発疹を示した。症例Cは33歳の症例AとBの父親で、3月26日に発症し、同様の症状を示した。症例AとBは麻しんワクチン接種歴がなく、症例Cは小児期に1回接種していただけであった。症例A、B、Cは全員3日間以内に発症していたので単一曝露による伝播が疑われた。この3症例は3月10日にA病院救急部門に麻しんと無関係の理由で来院しており、海外渡航歴は無かった。
その後2例の追加症例が報告された。症例Dは、A病院救急部門の医師で、麻しんワクチンを3回接種していたが、3月26日に発症し、発熱、発疹の症状を呈した。症例Eは11カ月の乳児で、3月27日発症し、発熱、発疹の症状を呈し、4月1日に川崎病の除外診断のためA病院感染症科を受診した。症例D、Eは3月10日にA病院救急部門を訪れており、ともに海外渡航歴は無かった。
疫学調査から、3月10日にA病院救急部門にいたことが5症例の共通因子であり、これらの症例の感染源を調査するため、3月10日に発熱、発疹を主訴とし、最近の海外渡航歴があるA病院救急部門受診患者を調べたところ、症例Fが特定された。症例Fは10歳小児で、ワクチン接種歴は不明、3月7日に発症し、発熱、感冒様症状、結膜炎の症状を示していた。3月8日にインドからペンシルベニア州に移り、3月9日に発疹を示した。3月10日にA病院救急部門に川崎病の除外診断のため転送され、症例A、Eと近くの診察室に4時間重なって滞在していたことが確認された。症例Fの診断はウイルス性発疹症であった。
6症例は全員麻しん血清検査IgM陽性であった。症例Aの鼻咽頭からはインドで流行している麻疹ウイルス遺伝子型D8が検出された。
症例Fはインドから飛行機に乗っていたため、CDCの国際移住検疫局(Division of Global Migration and Quarantine)が乗客者情報を入手し、乗客者の居住地州に情報提供したが、これらの乗客から2次感染者は報告されなかった。また、一般の人々と医療関係者に対して、様々な手段による注意喚起が行われた。接触者調査として、6症例に対する潜在的な曝露があったとされる4,000名に電話調査が実施されたが、新たな麻しん症例は確認されなかった。A病院職員168名のうち、72名(43%)で過去の麻しん血清検査の記録がなかった。今回検査した69名のうち8名(12%)は麻しん血清検査IgG 抗体陰性であり、そのうち5名は18日間の休職を命じられた。症例Dの医師以外の病院職員で麻しんを疑わせる有症者はいなかった。
この事例は医療機関における麻しん伝播の可能性を示唆しており、職員の麻しん罹患歴・予防接種歴の確認、およびそれらのない職員に対する麻しんワクチン予防接種実施が強く推奨される。
(CDC, MMWR, 61, No.2, 30-32, 2012)