はじめに
風疹が全数報告対象疾病となって以来、本市における風疹報告数は、2008年9件、2009年13件、2010年1件と推移していたが、2011年には62件と大幅に増加し、全国で最も発生の多い地域となった。また、国の通知に基づいて2010年12月から始めた麻疹診断時のPCR検査は1年間で28件実施しているが、麻疹PCR検査はすべて陰性、風疹PCR検査は18例で陽性となっており、このことからも市内での風疹の流行がうかがわれた。
風疹の発生状況
2011年第4〜5週にかけて、市内医療機関より3件の麻疹発生届を受理した。3例は入国後間もない20歳前後の東南アジアからの留学生で、保健所が麻疹PCR検査を実施したが、結果は3例とも麻疹陰性で、風疹陽性であった。その後、第7週と第11週にこれとは別に、4例の東南アジアからの留学生の風疹発生届を受理した。これら7例はすべて同じ日本語学校に通う同一国からの留学生であり、同じ寮で生活をしていた。この後の、日本人における風疹患者発生との疫学的リンクは定かではないが、2011年の流行はここから始まっている。本市はアジアの玄関口として、近年外国人登録者数も増加しており、入国後間もない外国人がこのように発症することは、他の感染症においても珍しいことではない。以後第20週までは、市内、県内での風疹発生は認められなかった。
しかし、第20週以降に、日本人の風疹患者の報告が20歳前後の男女を中心に増加した。本市における2011年の風疹発生状況を示す(図1)。報告数がピークになる8月頃(第33〜35週)には、複数の医療機関から、『市内繁華街の飲食店従業員の間で風疹が流行しているようだ』との情報もあり、保健所は積極的に患者情報の収集に努めたが、集団発生が起きている職場の特定には至らなかった。また、第41週には妊娠女性の患者発生届を受理したが、患者発生は減少傾向にあった。
ところが、第47週に入り、今まで患者報告がなかったW区において、保育園での集団感染が発生した。0〜2歳の乳幼児が30名通園する小規模な園であったが、職員、園児とその家族に、年末までに9名の発生を認めた。この中にはMRワクチンの定期接種対象となる前の0歳児も2例含まれていた。第47週から始まった感染は年を越して継続している。
年齢別性別の発生状況を示す(図2)。小・中学生の患者発生は認められず、高校生や専門学校生における発生も単発に終わっており、MRワクチンによる集団免疫が得られているものと推察された。また、30歳以上の患者は15例であったが、うち男性が14例であり、30歳以上の年代における抗体保有率の性差が浮き彫りになった印象である。
本市の対応
妊婦の患者発生や保育園での集団感染を受け、本市としての風疹流行への対応を行った。まず、風疹患者が増加していることや、風疹の基礎知識、予防接種の勧奨など、マスメディアへ情報提供し、市民への周知を行った。また、医師会を通じ各医療機関に、風疹を診断した際の発生届の徹底と情報提供、予防接種の勧奨、風疹に罹患した妊婦への対応等を依頼した。特に産科医療機関には、上記の依頼に加えて、妊娠女性への対応診療指針や相談窓口(2次施設)*の周知も図った。また、保健所の対応として、発生届を受理した際の情報収集、集団感染を探知した際の調査・指導と風疹PCR 検査を行うこととした。具体的に、今回の集団感染の起きた保育園の事例では、全園児と全職員のワクチン接種歴、罹患歴等の調査、予防接種の勧奨、保護者からの妊婦の抽出と指導、健康観察を行った。発生が継続しており、依然流行終息の気配がないことから、市内7区の各保健所では常に発生状況の情報を共有しながら、監視を続けている。
風疹は潜伏期間が比較的長い上に、不顕性感染も多く、ほとんどの患者の症状は軽微で回復も早いため、感染の実態がつかみにくい。また、医療機関の受診も1回限りであることが多いため、患者情報も十分には得にくい。今後の先天性風疹症候群の発生も懸念され、引き続き、本市としては風疹の発生に注意しながら、地道な取り組みを続けていく。
*妊婦感染の相談窓口の存在と現状(IASR 32: 266-267, 2011)
福岡市保健福祉局保健医療部保健予防課 園田紀子 澤田鉄郎