探 知:2011年11月7日に管内の施設から「11月1日より胃腸炎が多数発生している」との電話相談を受けた。この施設は8寮(男子5寮、女子3寮)から成り、職員46名、寮生140名(男83名、女57名)で、寮生の学校は高校28名、中学校41名、小学校58名、園内保育園13名で、10月25日〜11月7日の有症状者は25名であった。
調査結果:症例定義を(1)当施設の在籍者、かつ、(2)10月25日〜11月7日の間に発熱をきたしたもの、とすると、24名が該当した。症例の発熱以外の症状は、嘔吐71%、頭痛54%、嘔気50%、腹痛21%、下痢13%、鼻汁8%、咳8%、皮疹0%で、医療機関の受診者は胃腸炎、カゼと診断され、入院はなかった。
最初、感染性胃腸炎の集団発生と考え、9名(園児5名、小学生3名、中学生1名)の便検査を行ったが、ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスおよび食中毒菌はすべて陰性であった。しかし、平均最高体温が38.7℃と高く、症状頻度で頭痛が高く、嘔吐に比して下痢が低かったことからエンテロウイルス属の感染を疑いRT-PCR検査を行ったところ、9名全員の便からエコーウイルス6型が検出された。また、同時に行った細胞培養によるウイルス分離ではCaCo-2細胞およびVero細胞で明瞭なCPEを確認し、中和試験の結果からもエコーウイルス6型と同定された。
流行曲線では、10月25日〜11月3日は園児に、11月1日〜11月6日は小学生に症例が集積しており(図)、症例の発生率は、園全体で17%、性別で男25%、女5%、学校別で園児77%、小学生19%、中学生2%、高校生7%、寮別で男子5寮(41%、29%,28%、21%、6%)、女子3寮(5%、5%、5%)で、男、園児、小学生、男子寮に症例が集積していた。
考 察:症例の症状頻度と検査結果より、本事例はエコーウイルス6型によるいわゆるFebrile vomiting illnessの集団発生と考えられ、髄液検査は行われていなかったが軽症の無菌性髄膜炎が多数含まれていたことが示唆された1) 。
保育園では3日ごとに新たな発症者が出現しており、全員が1室で保育されていること、非ポリオエンテロウイルスの潜伏期幅が3〜6日であることから、10月25日の園児を起点(0次感染)として2次ないし3次の感染が生じたと考えられた(図)。また、園児は寮と保育園以外で外部と接する機会がないため、感染源は10月22日から発熱などがあった職員と推察した。寮では、各寮が2〜5人の7部屋で構成され、複数の症例が発生した4つの男子寮で症例がそれぞれ寮の初発症例の園児の部屋に52%、その隣室に13%と集積していることから、感染は保育園で罹患した園児から拡大したと推察した。
エコーウイルスの感染様式は飛沫、接触、糞口感染とされるが、保育園では職員が園児全員のトイレの世話をしていたこと、寮では症例の部屋とトイレの配置と利用との関連性はなかったことから、本事例の感染様式は糞口感染が関与した可能性は少なく、気道分泌物の飛沫あるいは気道分泌物の手指付着による接触感染であったと推察した。また、寮によって症例の発生率に大きな差があったことの理由は不明であったが、発症率の低い寮では症例の発生早期から手洗い、次亜塩素酸ナトリウムによる環境消毒を行っていたことから感染拡大対策への寮による取り組みの違いが関与したものと推察した。
参考文献
1)Markey PG, et al ., Emerg Infect Dis 16: 63-68, 2010
千葉県長生健康福祉センター
一戸貞人 岡本恵子 田澤小百合 松本澄江 山田裕康 安藤直史 松本正敏
田村哲也 坂元美智代 仲宗根里香 田中良和 村上きみ代 森下和代 田中修司
千葉県衛生研究所ウイルス研究室
堀田千恵美 小倉 惇 福嶋得忍 小川知子