手足口病患者およびヘルパンギーナの患者検体が搬入された2011年6〜11月の当研究所での検出状況を報告するとともに、同シーズン中に複数回手足口病を発症した患者からのウイルス検出の報告を行う。
2.検出方法
ウイルス分離は4細胞(FL、HEp-2、VeroE6、RD-18S)を使用し、2〜3代目まで継代を行った。同時に検体よりRNA を抽出し、Nix らの方法による1,2) エンテロウイルスのVP1領域を増幅するCODEHOP VP1 RT-seminested PCR法を行い、ダイレクトシークエンスによって約290塩基の配列を決定後、BLAST検索を実施し型別を行った。
3.検出状況
手足口病とヘルパンギーナ(発疹症含む)患者検体の搬入があった2011年6月2日(第22週)採取〜11月21日(第47週)採取まで、53患者(手足口病47患者・ヘルパンギーナ5患者・発疹症1患者)59検体からウイルスを検出した。内訳は以下のとおりである。コクサッキーウイルスA6型(CA6)を31患者(手足口病29名、ヘルパンギーナ2名)の咽頭ぬぐい液23検体・便3検体・水疱液7検体・唾液1検体より検出した。コクサッキーウイルスA16 型(CA16)を13患者(手足口病13名)の咽頭ぬぐい液13検体・水疱液1検体より検出した。コクサッキーウイルスA10型(CA10)を6患者(手足口病2名、ヘルパンギーナ3名、発疹症1名)の咽頭ぬぐい液6検体・便1検体より検出した。コクサッキーウイルスB3型(CB3:第32週)、B4型(CB4:第28週)、ライノウイルス(第29週)を手足口病各1患者の咽頭ぬぐい液(CB3とCB4)と便(CB3とライノウイルス)より検出した(図)。
CA6は細胞によるウイルス分離が困難であったため、すべてCODEHOP法で検出した後シークエンスによる型別を行った。CA10は、2検体分離(RD-18S)できたが、他の5検体は分離できず、CODEHOP法で検出を行った。CA16は、10検体VeroE6、RD-18S、FLで分離できたが、咽頭ぬぐい液4検体はCODEHOP法で検出した。分離したウイルス株は国立感染症研究所より分与された中和抗血清で型別同定した。CB3とCB4はFL、HEp-2、VeroE6で分離でき、デンカ生研の中和抗血清で同定した。ライノウイルスはCODEHOP法で検出を行った。
CA6は第22〜30週までの累積検出数の82%を占めたが、第31週以降は検出されていない。CA16は流行初期の第22週から少数ながらも検出され、第22〜30週までの検出数の13%を占めた。その後第47週(11月21日採取)まで散発的に検出され続けた。またCA10は第33週(8月19日採取)以降みられ、第33〜47週までの検出数はCA10が6例、CA16が7例で、CA10とCA16の感染が同時に拡がっていたものと考えられる。
CA6、CA16、CA10の患者年齢の中央値はそれぞれ1.8、2.3、3.5歳であった。CA6は30歳以上の患者も2名含まれており、成人にも感染が広がっていたことが推測できた。またCA6、CA16、CA10の有熱患者の率は84%、46%、83%であった。いずれも無菌性髄膜炎を発症したものは無かった。
CA6による手足口病は皮膚症状が特徴的で、大きい水疱を呈し、数週間たって爪がはがれるなどのケースもあるが、CA16の皮膚症状は従来の手足口病の発疹であった。CA10が検出されたケースはヘルパンギーナが半数を占めた。
4.複数回手足口病に罹患したケース
2011年6〜11月の間に複数回手足口病に罹患した患者が7名存在した(表)。1回目の発症はいずれも第23〜28週であった。1回目の発症時にウイルスの検出を実施した患者(ケース6)は1名でCA6であった。ケース2は1回目の発症時にウイルス検出を行っていないが、同時期に発症した弟よりCA6を検出している。ケース1、3、4、7の1回目の検出は未実施であるが、水疱が直径1cm以上で手の皮が剥けたり、1カ月後に爪の脱落があるなど、特徴的な皮膚症状を呈しており、CA6の感染が強く疑われた。
2回目の罹患は6患者がCA16で、1患者がCA10であった。3回罹患した患者(ケース1)は1例(3回目はCA10)存在し、同シーズンに3種類の手足口病ウイルスに続けて感染したと考えられる。
参考文献
1) Nix WA, et al ., J Clin Microbiol 44: 2698-2704, 2006
2)西村順裕,他,IASR 30: 12-13, 2009
神戸市環境保健研究所微生物部 秋吉京子 須賀知子
神戸市環境保健研究所企画情報部 森 愛
神戸市保健所予防衛生課 黒川 学