国内外における手足口病流行に関与するコクサッキーウイルスA6型の遺伝子解析
(Vol. 33 p. 60-61: 2012年3月号)

コクサッキ―ウイルスA6型(CA6)は主にヘルパンギーナ起因ウイルスの一つとして知られている。最近では手足口病(HFMD)患者からの検出例も増加傾向にある(2009年、2011年)。他方CA6によるHFMD患者のうち回復後に爪甲脱落症がみられるケースが2008年以降スペイン、フィンランド、フランスなど欧州を中心に報告されている1,2) 。

日本で2011年春から夏にかけて検出/分離されたHFMD患者由来の主なウイルスはCA6、次いでCA16であり、ヘルパンギーナ患者からはCA6、次いでCA10の報告が多かった。このうちCA6感染によるHFMDの場合、回復後、約1カ月後に爪甲脱落症がみられることが日本でも報告されている3,4) 。なおHFMD本来の症状が治癒してから、爪の剥離が起きるため、発生動向調査で把握することは困難であり、CA6感染によるHFMDと爪甲脱落症との関連性、疫学について詳細は不明である。

今般、日本で2011年に検出されたCA6の塩基配列情報と過去の国内外株との比較を行った。

GenBankで利用できるCA6の塩基配列の多くは5´側VP1部分領域であり、285bp長の塩基配列を用いて解析を行った。塩基配列はMAFFT プログラム5) にてアライメントを行った後、kimura-2-parameter法で塩基置換を推定、ブーツトラップサンプリングを1,000回行い、近隣結合法にて系統樹を作成した。

本邦で検出されたCA6のうち塩基配列が利用できるのは1994年の分離株以降である。解析に用いた領域が短いこともあり、分岐に関しては明瞭ではないが、過去の分離株がいくつかの系統に分かれることを図1に示している。日本株、欧州株他と系統解析の結果、2008〜2011年に報告されたHFMDおよびヘルパンギーナ由来CA6株は一つのクラスターを形成している。さらに日本株は二つのサブクラスター(A、B)に分かれており、2008年以降の欧州株ともオーバーラップしていた。また2009年のHFMD患者(佐賀県)より検出されたCA6株がB系統に含まれていたため、2008年欧州で流行後、遅くとも2009年には爪甲脱落症を引き起こした欧州株と近縁の株が日本で検出されていたことになる。

サブクラスターA、B内の塩基の違いはいずれも0.7%以内であり、2011年の日本のサブクラスター間の塩基の違いは平均4%(11.5/285bp)、アミノ酸は平均0.2%(0.2/95aa)であった。なお2008〜2010年の欧州株との違いは最大5.6%であった。

2011年はHFMD患者からのCA6検出が多数を占めたが、2009年にも検出報告は増加傾向にあった。このことから2009年には欧州タイプのCA6が日本で流行していた可能性を示唆している。

解析した領域はVP1部分領域であり、今季の特徴である強い発疹像、爪甲脱落症との関係については詳細な検討が必要となろう。

 参考文献
1) Blomqvist S, et al ., J Clin Virol 48: 49-54, 2010
2) Bracho MA, et al ., Emerg Infect Dis 17: 2223-2231, 2011
3) Fujimoto T, et al ., Emerg Infect Dis 18: 337-339, 2012
4) 柏井健作, 他, IASR 32: 339-340, 2011
5) MAFFTプログラム
 http://mafft.cbrc.jp/alignment/server/index.html

佐賀県衛生薬業センター
増本久人 南 亮仁 野田日登美 江口正宏 古川義朗 鶴田清典
大阪府立公衆衛生研究所
中田恵子 左近(田中)直美 山崎謙治
広島県立総合技術研究所 高尾信一
山東省CDC,中国 Tao Zexin Xu Aiqiang
中国CDC  Zhang Yong Xu Wenbo
国立感染症研究所感染症情報センター
藤本嗣人 花岡 希 小長谷昌未
国立感染症研究所ウイルス第二部
吉田 弘 清水博之

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る