手足口病後の爪変形・爪甲脱落症
(Vol. 33 p. 62-63: 2012年3月号)

2009年8〜12月、愛媛県松山市周辺で爪甲が後爪郭近くから末梢に向かって剥離した患者が多数確認された。そのほとんどが爪変形に気づく3〜11週前に手足口病に罹患していた。同年7〜8月には同地域で定点当たりの報告数が例年の3〜4倍を超える手足口病の流行があり、四肢伸側などに広範に水疱や漿液性丘疹が分布する重症例も多くみられていた。前述の爪変形は、この非典型的な手足口病に続発した爪甲脱落症と考えられた。

症例1:6歳、女児
2009年8月1日39℃台の発熱があり、翌日には解熱したが、8月3日より上下肢の水疱・漿液性丘疹と口腔粘膜疹を生じたため当院を受診、手足口病と診断した。10月8日、右示指爪の基部から末梢に向かう爪甲の剥離(図1)を訴えて受診した。

症例2:27歳、女性
2009年10月27日、右示指・中指・環指(図2)、左母指、示指、中指の爪の横線、陥凹を訴えて当院を受診した。問診により、2009年8月24日頃手足の水疱、紅色丘疹、口腔粘膜のアフタ様粘膜疹が出現し、近医にて手足口病と診断されていたことが判明した。

2009年8〜10月に上記症例を含み9名の患者が同様の爪症状で当院を受診した。これらの経験を踏まえ、松山市とその近隣の皮膚科医にアンケート調査を行ったところ、当院の症例と合わせると小児(0〜7歳)32名、成人7名、計39名の患者で爪変形、爪甲脱落が確認され、そのうち35名で手足口病の既往があった。手足口病発症から爪変形に気づくまでの期間は、4週までが9例、5〜8週が18例、9〜12週が5例であった。急性期に発熱があったものは23例、なかったものは6例、不明が10例であった。消化器症状があったものは7例、なかったものは13例、不明19例であった。

39例のうち10例で、手足口病の原因と報告されているエンテロウイルスの中和抗体価を測定した()。ペア血清で検討できた症例10ではコクサッキーウイルスA6型(CVA6)のみ有意な抗体価の上昇が認められ、CVA6の感染による手足口病と診断した。手足口病回復期に測定した11カ月男児(症例9)ではCVA6の抗体価のみ64倍と高値を示し、CVA6による手足口病であったことが示唆された。他の8例においてもCVA6抗体は陽性であり、CVA6感染があったと考えることに矛盾しない。これらの爪変形を伴う手足口病は、時間的・地理的に極めて狭い範囲に発生しており、同じウイルス株によるものと考えるのが妥当と思われることから、2009年当地において流行し、当院で経験された爪甲脱落症を伴う手足口病の原因ウイルスはCVA6と推定した。

手足口病後の爪変形は、2000年Clementzらにより5例が初めて報告され1) 、2001年にはBernierらが4例を報告した2) 。Osterbackらは、2008年秋にフィンランドでCVA6による手足口病が流行した際、手足口病の1〜2カ月後に多くの患者で爪の脱落が見られたことを報告した3) 。また、Salazarらは、2008年6月に、スペインバレンシア地方で爪甲脱落症が集団発生し、その約半数に爪甲脱落の前1カ月以内に手足口病の既往があったことを報告した4) 。

本邦では2009年に上記の手足口病後の爪甲脱落症を我々が報告した5) ほか、ほぼ同じ時期に大分県でもCVA6による手足口病が流行し、多くの症例で爪甲脱落症が続発したことが報告された6) 。

2011年6〜8月には、西日本を中心に2009年を超える手足口病の流行が見られた。2009年に経験した症例と同様、発熱や水痘様の広範な皮疹を呈し、その後の爪変形を続発する例も多く、国立感染症情報センターの分析でCVA6が検出されている。今後爪甲脱落症を続発するCVA6による手足口病は、エンテロウイルス感染症の1つの型として注目すべきであろう。

 参考文献
1) Clementz GC, Mancini AJ, Pediatr Dermatol 17: 7, 2000
2) Bernier V, et al ., Eur J Pediatr 160: 649, 2001
3) Osterback R, et al ., Emerg Infect Dis 15: 1485, 2009
4) Salazar A, et al ., Euro Surveill, 13: 1, 2008
5) 渡部裕子, 他, 日皮会誌 121: 863, 2011
6) 宮本麻子, 他, 日皮会誌 120: 755, 2010

わたなべ皮ふ科形成外科 渡部裕子

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