2012年1月30日(第5週)に赤穂健康福祉事務所管内の隣接する2つの小学校(児童数はA校が478名、B校が408名)でインフルエンザの集団発生に伴って学年閉鎖等の措置がとられた。A校では第1学年71名中24名が発症したため学年閉鎖、B校では第1学年の1クラス31名中8名の発症により学級閉鎖となった。患者の主症状は発熱(37.4〜40.0℃)、咳および上気道炎であり、1割程度が頭痛や全身倦怠感を訴えた。発症した32名は、医療機関におけるインフルエンザ迅速診断ではB型が24名、A型が2名陽性であった。このうち2つの医療機関で採取された4名および近隣の幼稚園児1名から採取した鼻腔ぬぐい液が当所に搬入された。これらの5検体についてHA遺伝子領域のRT-PCRを行い、その塩基配列を調べたところ、すべてがB型インフルエンザウイルス(Victoria系統)であった。
MDCK細胞を用いてウイルス分離を行ったところ、5検体ともに初代培養4日でCPEが観察された。このウイルス培養上清の0.5%ニワトリ赤血球でのHA価は256〜512であった。国立感染症研究所(感染研)から配布された2011/12シーズンインフルエンザサーベイランスキットを用いて赤血球凝集抑制(HI)試験を実施した結果、分離されたウイルス株は抗B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)血清 (ホモHI価2,560) に対して、640のHI価を示した。その他、抗B/Bangladesh/3333/2007(山形系統)血清(同1,280) 、抗A/California/7/2009(AH1pdm09)血清(同1,280)、抗A/Victoria/210/2009(H3N2)血清 (同1,280) に対してはHI価が10未満であった。
HA遺伝子の系統樹解析では、感染研のプライマー情報に基づいてウイルス遺伝子のHA1領域の塩基配列を決定したところ、今回分離した5株すべての塩基配列が一致した。また、塩基配列から今回の分離株はN75K、N165K、S172Pのアミノ酸置換を持つB/Brisbane/60/2008株に代表されるBrisbane/60クレードに属し、L58Pのアミノ酸置換のあるグループ1に属していた。さらに、これらの株ではE198Gのアミノ酸置換が認められた。今シーズンに県内で分離された他の3株もBrisbane/60クレードのグループ1に属していたが、これらはE198Gのアミノ酸置換がなく、T182Aのアミノ酸置換を持つ点で今回の分離株とは異なっていた。
今シーズンに当所で検出あるいは分離したインフルエンザウイルス(2012年2月7日現在)は、90%(76/84)がAH3亜型で、10% (8/84) がB型であったが、B型の検出率が増えていることもあり、今後とも引き続き発生動向について注視していく必要がある。
兵庫県立健康生活科学研究所健康科学研究センター
押部智宏 榎本美貴 井伝仕 近平雅嗣
赤穂健康福祉事務所 山下勝也 冨井智重 水野美枝子 安元兆
赤穂市民病院診療部長兼小児科部長 白石英幸
赤穂はくほう会病院小児科医長 一ノ瀬洋次郎