HA遺伝子系統樹解析:臨床検体からRT-PCR陽性検体の産物を増幅し、遺伝子塩基配列の決定を行った。また、集団発生例から検出したウイルスは、その集団内で同一のHA遺伝子配列を有していた。そこで、AH3亜型10例(G 4例、S 6例)、B型ビクトリア系統2例(G 2例:同一事例で1塩基違い)、B型山形系統2例(G 1例、S 1例)について各系統樹解析を行った。
AH3亜型の10例はすべてT212Aのアミノ酸置換を共通に持つVictoria/208 (Vic208)クレード内に位置した。10例すべてがVic208クレード内のV223Iクレード内に位置しており、このうち9例が(1)A198S、N312S、Q33R、S45N、T48I、N278K、(2)A198S、N312S、N145Sの2つのサブクレードに分かれて属した。また、サブクレード(1)内でL3Iを有する2例は2011年の横浜市1) や三重県2) の報告例と近縁であると考えられた。なお、今回検出したウイルスは、2011年10月に佐賀県内で検出したIASR報告例(D53N、Y94H、I230V、E280Aサブクレード)3) とは異なるサブクレードに属していた(図1)。
B型ビクトリア系統2例のHAアミノ酸配列はほぼ一致し、アミノ酸置換N75K、N165K、S172Pを有するB/Brisbane/60/2008株を代表とするBrisbane/60 (Bri60)クレードに属していた。さらに、A202Eサブクレードに位置しており、高知県2011年登録株(B/KOCHI/61/2011 MAY)に近縁であった(図2)。
B型山形系統2例のHAアミノ酸配列は同一であり、アミノ酸置換S150I、N165Y、G229Dを有するBangladesh/3333/2007株を代表とするクレード3に属していた。さらに、アミノ酸置換N202S、N116K、E182Gを持つ堺市2011年登録株(B/SAKAI/36/2011 NOV)と同一のサブクレードに位置していた(図3)。
抗原性解析:患者検体をMDCK細胞に接種して2代目まで継代培養を行った。これらの分離株はAH3亜型23株、B型ビクトリア系統4株、B型山形系統3株について国立感染症研究所から配布された2011/12シーズンインフルエンザサーベイランスキットを用いて抗原性解析を行った。
AH3亜型の23株は0.75%モルモット赤血球を用いた赤血球凝集(HA)試験でHA価8〜128であった。さらに赤血球凝集抑制(HI)試験を行った結果、抗A/Victoria/210/2009(H3N2)血清(ホモ価640)に対して4株はHI価160とホモ価から4倍以内の低下にとどまったが、他の19株は、HI価80(12株)、40(6株)、10(1株)と8倍以上の反応性の低下を示し、抗原性の変化が推測された。
B型ビクトリア系統4株の0.5%ニワトリ赤血球を用いたHA価は64〜128を示した。そのHI価は、抗B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)血清(ホモ価2,560)に対して、4株すべてHI価640と4倍以内の低下を示した。
B型山形系統3株の0.5%ニワトリ赤血球を用いたHA価は256〜512であった。それら3株のHI価は、抗B/Bangladesh/3333/2007(山形系統)血清(ホモ価2,560)に対してはHI価640〜1,280と4倍以内の低下を示した。
佐賀県内では2012年1月中旬(第3週)頃からインフルエンザ患者が急増し、AH3亜型が多く検出されたが、その他にB型ビクトリア系統および山形系統が混在する流行となっている。引き続き発生動向を注視する必要がある。
参考文献
1) IASR 32: 334-335, 2011
2) IASR 32: 336-337, 2011
3) IASR 32: 367, 2011
佐賀県衛生薬業センター
増本久人 南 亮仁 野田日登美 甘利祐実子 諸石早苗 江口正宏
古川義朗 田清典
佐賀県健康福祉本部健康増進課
森屋一雄 永尾一恵
国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センター第1室
藤崎誠一郎 岸田典子 小田切孝人