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(1)1979〜80年,全国で無菌性髄膜炎や脳炎から分離されたウイルス(表1)をみると,エンテロが76%と圧倒的に多く,その95%は6〜10月に集中している。1979年にはecho9,5,entero71,cox.B5,また,1980年にはcox.B2,echo9が多かったが,echo9について言えば,1979年長崎で多発し,翌年,兵庫,香川,秋田へと波及し,秋田での侵襲はかなりのものであった。しかし,エンテロが夏〜秋の無菌性髄膜炎の主病原であることに関してはこれまでのストーリーと大差なく,従って,検査の要点の1つをそこにおけばよいが,検査に際して「病原微生物検出情報」は大いに役立つといえよう。
(2)ところで,1976〜80年,秋田での感染症サーベイランスで収集された脳神経系疾患の季節別発生状況(表2)をみると,無菌性髄膜炎の約80%が夏〜秋に発生しているが,上述の如く,主病原がエンテロであろうという推定は容易につく。しかし,急性脳炎や麻痺性疾患が冬〜春に60%前後ずつ発生し,予想していた時期とは異なるところに多発期があったことに改めて注目している。エンテロ以外のagentsの可能性が高いわけであるが,我々がこれ迄に非エンテロとして確認したのはparainfluenza3によるReye's syndromeとherpes simplexによる脳炎(死亡例の脳材料)の各1例と風疹後脳炎の9例などの経験にすぎない。従って,非エンテロのagentsの疫学像や病原像をより明確にしていくことは臨床ウイルスに携わる者の課題でもある。その具体的資料の1つが表3のWHO Viral Report(Assad,F.et al,1980)であろう。
(3)しかしまた同時に,このような非エンテロの病原の疫学像が年々少しずつ変化していることにも目を向ける必要があろう。例えば,ワクチン開始以来激減している麻疹,免疫保有状況が低下しつつあるherpers simplex,冬〜春の教科書的流行期が6〜7月の夏に移動しつつあるムンプス(宮城,秋田のサーベイランス成績)などはその証左であり,今後,ムンプスや水痘などのワクチンが定期化されれば更に変化が加速していくと予測されるからである。
(4)ともあれ,脳神経系の病原分析には,当然のことながら,的確な検体採取,検査,判定が要求されるが,より確かな成績を得るためには,今後,検査対象病原の分担化または専門化も考える必要があるのではなかろうか。地研の研究者と予算を急激に増加することは現状ではむずかしく,従って,地研の臨床ウィルス学が更に進んだとしても,すべてを行うこと−浅く広くは可能としても−は到底不可能だからである。東北6県防疫研究会(事務局秋田衛研)でも議論したことだけれども,東北なら東北のブロック内の地研がそれぞれ得意な担当領域を決め,鋭く病原−疫学も含めて−を追求していく姿勢が対応の1つとして必要なのではなかろうかと考えている。
秋田県衛生科学研究所 森田盛大
表1.1979〜80年,脳神経系疾患からのウイルス分離(全国)
表2.1976〜80年,秋田県における脳神経系疾患の季節別発生
表3.1967〜76年,北半球におけるウイルス性脳神経系疾患の季節別発生
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