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Vol.2 (1981/3[013])

<外国情報>
レジオネラ症(在郷軍人病)−イタリア


1980年9月,イタリアComo地区における一病院の医師らは,同月肺炎で入院した幾人からの高年令患者が,アドリア海沿岸Lido del Savioのあるホテルに最近滞在していたことに気がついた。

ローマのInstituto Superiore Sonitaで実施された血清学検査の結果は,これらの患者のあるものがレジオネラ症であることを示唆した。そこで,疫学調査が関係各地区の衛生当局との協力で開始された。

Como地区ならびにLido del Savioに近い2つの市の病院記録を検査すると,12人が問題のホテルに宿泊したあと,7月から10月にかけて入院しており,そのうち2名はすでに死亡していた。生存者6名の血清標本をしらべると,2名の患者は血清型1のL. pneumophilaに対して抗体陽性転化しており,のこり4名では間接蛍光抗体法で128倍から4096倍の安定した,あるいは変動する抗体価を示した。

Como地区からの団体旅行グループのメンバーは,シーズンの終わる9月22日にホテルが閉鎖されるまで,数次にわたってそこの夏期滞在客の一部となっていた。それぞれ50名から成る最後の2グループの参加者とその身内に面接を求め,Lido del Savioでの行動,ホテルから出発前後の健康状況,そして感染要因などについて問診を行った。

94名から情報が得られたが,うち21名はホテル滞在中,出発前2週間の間に発熱を伴った病的症状を経験しており,すくなくとも9名は入院し,1名が死亡していた。85名について血清検査が実施された。発熱のあった19名のうち11名はL. pneumophila1型に対して間接蛍光抗体128倍(reciprocal)以上を示し,一方,発熱のなかった他のメンバー66名においては,128倍以上の抗体価は4名のみで有意の差(chi square=23.8,P<0.0001)を示した。ホテル従業員10名については,9名は128倍を以下で1名は256倍であった。

ホテルならびにその近辺からの環境標本について調査がなされた。ホテルは空調設備をもたず,冷却塔もなかった。客室への運搬飲料水は都市水道のもので塩素消毒されており,ホテル庭園の植物への散水は付近の井戸からのもので塩素消毒はされていない。客室のシャワーや流しからの採取水,そしてホテル周辺の排水路に隣接した溜り水にはL. pneumophila1〜4型に対する多価蛍光抗体を用いた直接法で,蛍光陽性の桿菌構造の存在を認めた。同様の方法では海水標本は陰性であった。培養試験が現在進行中である。しかし,発熱,抗体価とシャワー回数,排水路周辺の散策度との間には相関はみられていない。

編集部註:レジオネラ症の集団発生は,英国,ポルトガル,スペインを含むいくつかのヨーロッパ諸国でも報告されている。散発例については他の国々からも報告がある。今回の例で特に興味があるのは,沿岸の保養地ホテルでの発生であり,スペインやポルトガルの例もこのような背景をもっていた。また,これまでも,疫学的な確たる証拠はないが,運搬飲料水中からL. pneumophilaの分離されたことがある。一時的な給水系の破壊が原因であったという正式報告の一例もあるが,菌の出所と汚染の様式は一般にはまことに促え難い。

(MMWR,Vol.29,No.49,591)






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