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諸言:肺炎球菌によっておこる病気に対する多価多糖体ワクチンは1977年に米国においてライセンスを得た。この声明はこのワクチンに関する現在の知識の総括であり,限定された個人や集団における使用への手引きである。
このワクチンで防御されうる肺炎球菌感染症:
肺炎球菌による肺炎は,あらゆる肺炎症例の25%以下である。しかし,抗生物質時代であるにもかかわらず,年間かなりの数の患者と死者がでている以上,これは重要問題である。あらゆる年令層で発生するが,40才をこえると頻度が増す。肺炎球菌髄膜炎は主として小児の疾患であり,ことに2才以下が多い。この菌による死亡率は,菌血症や髄膜炎をおこした場合,あるいは基礎疾患のあるものや老年者に高い。特定の慢性疾患をもっている患者は,肺炎菌感染をおこし易いし,また,その場合重症となりがちである。例えば,かま状赤血球貧血症,多発性骨髄腫,肝硬変,腎疾患,脾機能障害,脾切除患者,臓器移植患者などがリスクが大きい。その他,アルコール中毒患者,糖尿病,心疾患,慢性呼吸器疾患,免疫抑制剤使用患者などにおいても肺炎球菌感染はおこり易く,重症ともなる。頭蓋骨折,あるいは神経外科手術に伴う髄膜液漏出をもつ患者は,肺炎球菌による髄膜炎を繰り返すことが多い。
最近の肺炎球菌分離株についての抗生物質の感受性調査は,ペニシリンに関しては何等の抵抗性上昇の傾向を示していない。1978年から1980年の間,臨床的に意味のある肺炎球菌分離株の2%以下が,ペニシリンに対してMICが0.1〜0.9μg/mlであって相対的に感受性がおちているが,ペニシリンが肺炎球菌感染の治療においてまず選択すべき抗生物質であることにはかわりない。
肺炎球菌多糖体ワクチン:米国での使用について1977年にライセンスを得た肺炎球菌ワクチンは,14の血清型の精製莢膜物質(デンマーク分類1,2,3,4,6A,7F,8,9N,12F,14,18C,19F,23F,25)を含んでいる。個々の莢膜多糖体が別々に分離され,最終的に混合されてワクチンとなる。この14の血清型は,米国における原因菌としての型の68%を占めており,さらに免疫学的に関連ある血清型の17%をカバーしている。例えば,6Aと6Bとの間に交叉防御があるように。大部分の健康体はワクチンに反応し,2〜3週で型特異抗体は2倍程に上昇する(ラジオイムノアッセイ)。各型の多糖体に対してどの程度の抗体価があれば感染防御が成立するかは不明である。
肺炎球菌多糖体ワクチンの効果:1920年代,30年代,そして40年代にもいくつかの肺炎球菌ワクチンが開発され,そして試験されたことがあった。3価あるいは4価のワクチンが特定の対象群でその効果が報告されたが,抗生物質の登場によっていつしか用いられなくなり,メーカーも生産を中止した。
1970年代となり,12価のワクチンが南アフリカで用いられた。それは年間1000人あたり200症例の肺炎球菌性肺炎の発生するある金鉱山において,健康な若い成人に対して接種されたのである。このワクチンは型特異的な防御を与え,肺炎球菌肺炎ならびに一般の呼吸器疾患に対する罹患率を有意に減少せしめた。また,14価のワクチンがニューギニアの原住民で試験された。ここでは急性,慢性の呼吸器疾患が極めて多く,その大部分が肺炎球菌によるものであるが,ワクチン接種によって肺炎の罹患率と死亡率とは顕著に減少した。
米国においては,45才以上の外来患者を対象とした観察と,精神科患者の慢性疾患養護施設における入院患者を対象とした研究がある。これらいずれの研究においても,多価ワクチン接種者群とプラシボ接種者群との間に罹患率と死亡率のちがいがみられなかった。
子供におけるワクチン効果の観察はあまりないが,2才以下の小児にとってワクチンの抗原性の低いことが知られている。ただ,2〜25才の若年層のかま状細胞貧血症や脾切除患者に8価ワクチンを接種した場合,肺炎球菌感染を有意に減少せしめたことが報告された。
防御効果の持続期間は不明である。上昇抗体価の持続については現在のデーターは3〜5年の持続を示している。
副反応:被接種者の約半数は局所の発赤か疼痛を訴える。しかし,アナフィラキシー反応のような障害はすでに500万人程接種しているが極めて稀れである。再接種の際,局所そして全身反応が重いことがあるが,第1回接種による上昇抗体との反応によるものと考えられている。インフルエンザワクチンとは接種部位をかえた方がよいといわれ,一般に肺炎ワクチン接種は大人において1回限りとすべきである。
ワクチンの使用:
現在使用できる14価のワクチンは,含まれる型と同一の肺炎球菌による菌血症を伴った肺炎の発生をほぼ80%減少することが示されている。ただこの成績は基礎疾患として慢性疾患をもっている個体を対象とした場合の観察ではないので,当委員会として最終的な結論を出すのに充分な情報がなく,かぎられたデータにもとづいて次のような勧告を提出するにとどまる。
1.脾の機能不全,あるいは解剖学的に脾を欠除している2才以上の個体は,ワクチン接種による利益がある。抗体産生の不全のため無効の例も報告されているが,致死的菌血症のリスクが大きいので,ワクチン接種をこころみるべきである。
2.慢性疾患を基礎にもち,肺炎球菌感染のリスクの高い個体への接種がすすめられる。この必要性は年令の高まる程大きくなる。しかし,ワクチンの効果についての知見の蓄積にさらに継続的な努力が望ましい。
3.保育園などある特定の閉鎖集団の中で肺炎球菌による流行がある場合,ワクチン接種が考慮されてよいであろう。
4.ある特定の地域社会で流行のある場合,その中のリスクの大きい個体に選択的に接種することが考慮されうる。
5.一般社会へのルチーンの接種については,それを支持する充分のデーターがない。
(MMWR,Vol.30,No.33,Aug.28,1981)
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