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Vol.6 (1985/5[063])

<外国情報>
新鮮食品によるボツリヌス中毒−カリフォルニア


1984年8月,新鮮な材料で作製したが,料理法が正しくなかったことによる2件3症例のボツリヌス中毒がカリフォルニア州で報告された。

事例1:サンタクルス郡の61歳の婦人と13歳の孫娘のボツリヌス中毒が報告された。老婦人は古典的症状を呈したが,孫娘の症状はより軽度であった。発病3日前,祖母が穀類,玉ねぎおよびピーマンを詰めた2つの七面鳥ローフを料理した。1つのローフは調理後ただちに食べつくされ,異常なかったが,もう1つはパイロットランプつきガスオーブン(その後の温度測定によると32.2℃)にうっかり置かれていたのを翌日午後祖母がみつけた。彼女はその一部分を試食したのち約150℃で約20分間加熱しなおして他の3人の家族に食べさせた。

36時間後,彼女が眼覚めた時両側性眼瞼下垂,複視および無力性顔貌を呈していた。再加熱したローフを食べた他の人の中では,孫娘だけが症状を呈した。彼女は祖母と一緒に再加熱する前に七面鳥ローフを試食した覚えはないが,そのローフの中心部を食べていた。2患者の血清中にはA型ボツリヌス毒素が検出され,3価ボツリヌス抗毒素投与によって2人とも完全に治癒した。その七面鳥ローフは食べつくされていたので,汚染食品の確認はできなかった。

事例2:オレンジ郡の22歳の男性が午前2時に嘔吐と,眼がかすみ,盗繧ェ厚くなって矧痰ェ覚めた。症状は四肢麻痺,次いで人工呼吸装置を必要とする呼吸不全へと進展した。彼は発症40時間前,彼の同室者が新鮮材料で料理したシチュー(肉と皮つき馬鈴薯とにんじん)を食べた。そのシチューは7インチの深さの鍋を上まで満たして45分間煮立たせ,ガスを消してからレンジの上に放置された。同室者は熱いうちに食べ無事だった。患者は16時間後に再加熱することなく味見をしたが,味が悪いと訴えた。同室者はそれが酸味を帯びたことを確めてただちに吐き出し,口をすすいだので,無事であった。その後シチューを捨ててしまったので検査することができなかった。患者血清中にA型ボツリヌス毒素が検出され,患者はボツリヌス抗毒素で治療を受け,長期間入院した後回復した。

編者註:土壌中にはいたるところボツリヌス菌胞子が存在するので,特に土中から収穫したての新鮮食品が汚染しやすい。胞子はきわめて耐熱性で数時間の煮沸に耐過生残するが,発芽し毒素を産生するためには適温,適度なpH,および酸素含量などいくつかの条件が充たされなければならない。一般的には食品性ボツリヌス中毒症は胞子で汚染され,ボツリヌス毒素産生をゆるすような調理をした植物の自家製缶詰からおこる。また,調理されたのち,少なくとも16時間適温に近い温度に保たれた食品中にもボツリヌス毒素が産生される。本症例に限らず,以前から市販のパイ,酢漬け玉ねぎ,ベイクドポテトの例なども同じ機序によるボツリヌス毒素産生例として説明されている。これらの食品は料理され,適温近くで放置され,再加熱なしに摂取されている。加熱して提供される食物は熱いうちか,冷凍保存後十分再加熱(毒素は加熱に弱い)して提供すべきである。

(CDC,MMWR,34,No.11,1985)






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