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1986年12月島根県の中央部の中国山地にあるH村の小中学校で食中毒様症状を呈する集団発生がみられた。ただちに所轄保健所は県・衛生公害研究所と連絡をとり,検食,検便するとともに疫学調査に乗りだした。
まず患者発生の報告は12月1日,村役場の保健婦および診療所より嘔気,嘔吐,腹痛などの症状を示す学童があり,同様な症状の欠席者がめだつ旨の届出がなされた。保健所の調査結果によると,同村内には7kmの距離を隔てたA地区,B地区にそれぞれ保育所,小学校,中学校があり,そのうち患者発生は小中学校にのみみられることが判明した。両地区の有症者の発生日は11月30日,12月1日の両日に集中する短期間に分布していた。小中学校4校283名のうち110名が発症し,有症率は38.9%であった。それらの代表的な症状の頻度は嘔気が81.8%,嘔吐40.9%,腹痛78.2%,下痢20.9%,発熱(37〜39℃)35.5%,頭痛56.4%であった。また,患者発生前後1週間の欠席調査からも12月1日,2日を中心に12月4日まで持続した。このように突発的に発生し,すみやかに終息したこと,両地区共同の行事等がなかった状況からして単一暴露として両地区4小中学校にのみ配食している同村給食センターの学校給食が考えられ,給食献立の細菌検査が行われたが,食中毒起因菌は検出されなかった。
また,同時に有症者32名の便が採取され,サルモネラ,腸炎ビブリオ,カンピロバクター,病原性大腸菌等10種類の菌検索を行ったが,いずれも起因菌の検出はできなかった。便の性状は悪臭があるものの正常ないし軟便であり,いわゆる下痢便は認められなかった。
ロタウイルスの検査は抗Waモルモット血清を固相化し二次血清に抗Waウサギ血清を用いた間接ELISA法によりおこなった結果,児童31名中22名(71%)からロタウイルスが検出された。しかし,給食従事者(調理人)4名からは検出されなかった。
以上のことから本食中毒様事例は検食,検便の検査結果でいわゆる細菌性食中毒は否定され,患者から高率にロタウイルスのみ検出された。しかし,同時期に県下の感染症サーベイランスによりロタウイルスによる感染性下痢症の流行は確認されているものの,本事例は通常の下痢症患者発生パターンとは異なる。さらに同時多発した点などの疫学調査の結果から判断して単一暴露,すなわち4つの小中学校の共通点は給食のみであり,原因食は特定できなかったものの,ロタウイルスによる食中毒様集団発生と推定された。
島根県衛生公害研究所 板垣 朝夫 福島 博 保科 健 中村 令
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