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風しんは1982年をピークとする前回の流行以後散発的な発生がみられていた。今回の流行は1986年の神奈川,熊本などにおける地域的小流行を前兆として,1987年に入ってから急速に全国的流行へと拡大した(図1)。前回から5年の周期で流行が始まったので,流行の規模は前回と同程度とみなされる。第14週までの患者報告数は全国集計で123,190人でその約半数が5〜9歳に集中している(表1)。地域的には徳島,福岡で特に報告が多く,ついで埼玉,千葉,青森,群馬,石川,東京などが多い。(図2)。
病原体情報に報告された風しんウイルス分離株数は1981年56,1982年185,1983年41,1984年24,1985年23,1986年9で,1987年はまだ報告がない。分離報告は主に鳥取,島根県の成績で,この両県で流行周期による数の増減はあるものの,毎年検出が報告されることは,流行閑期にも風しんウイルスが常在していることを示している。
厚生省流行予測事業において1986年に実施された抗体調査成績について,現在までに集計された15県の成績を表2に示した。同成績について,前回流行前後の1980年,1983年との抗体陰性率を比較したのが図3である。この図では調査対象者の出生コホートが同一縦軸上にくるように年齢をずらして作図してある。図にみるように,13歳以下では1983年と1986年の間では陰性率の変動はなく,この期間に大きな流行がなかったことを反映している。流行の中心となる5〜9歳群の抗体陰性率は15県合計で64%と高く,福井の28%から高知の96%と地域差が大きい。
ワクチン定期接種開始以降拡大している14歳以上の陰性率の低い谷が1986年には24歳に達した。この谷は女子のみにみられ,男女を調査した新潟県の成績(図4)では,ワクチン対象外の男は10歳以上29歳まで陰性率が30〜50%と横ばいである。14歳以下の年齢群では男女差はみとめられない。
風しん流行時最も問題となる妊婦年齢層の抗体陰性率は,25〜29歳群でみると15県合計で24%,高いところでは島根,栃木のように50%以上と,1980年に比較するとやや低下しているものの,依然として多くの感受性者が残されている。さらに,男性は感受性者が多いので,夫が妊婦の感染源となる危険性が指摘される。
<参考>1986年より1987年にかけて伝染性紅斑が6年ぶりに流行している。最近この病原としてパルボウイルスが確定的となってきた。妊婦が感染すると自然流産,子宮内発育不全の原因となる疑いが持たれ,また,先天性異常の原因となる可能性が考えられている。
図1.風しん患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図2.風しん患者発生状況(1987年1〜14週)
表1.年齢別風しん患者発生数および割合(%) 1987年第1〜14週累計報告数(感染症サーベイランス情報)
表2.1986年県別年齢別風しん抗体陰性率(女)(1986年流行予測事業暫定数)
図3.年齢別風しん抗体陰性率(感受性率)(女)(1986年流行予測事業成績速報)
図4.性別年齢別風しん抗体陰性率(感受性率) 新潟県(1986年流行予測事業成績速報)
(参考)伝染性紅斑患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
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