HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.8 (1987/8[090])

<国内情報>
山の湧水によるCampylobacter食中毒の概要


 概況:同一観光地の飲水により,7小学校,1中学校生1,106名中398名が,5月7日夜から食中毒症状を呈した。

 8小中学校が遠足の目的地とした春日山城跡および春日山神社は,上越市大字大豆地内にあり,春日山は上杉謙信の居城で,この国定史跡のある山の中腹に上杉謙信を祭神とした春日山神社があり,観光地として年間25万人が訪れるという。この遠足は日帰りで,同市内の6校の他,約70km離れた長岡市の小学校と約80km離れた南蒲原郡中之島町中学校が実施した。

 今回の8小中学校の共通食は当神社が設置した水飲場等の飲水で,そのカイ二乗検定では121.3の値を示し,原因食品であることを決定付けている。この飲水は,標高180mの春日山中腹の城跡本丸の下約50mの2つの横穴式取水源から,塩ビ管で第1受水槽(3t)と第2受水槽(7t)に引いて貯めていた。この2つの受水槽はそれぞれの槽底で塩ビ管で連結されていた。そして第1受水槽から水飲場,手洗所,社務所,売店および便所などに配管されていた。その滅菌設備として自然流下式の塩素滅菌機が設置されていたが,機能していなかった。

 症状:表1のとおり,腹痛,下痢が主症状で,下痢は17回に及ぶ者もあり,嘔吐は5回と割合多く,発熱は37.5℃から40℃であった。

 潜伏時間:図1のとおり,2日から4日目に発症した者が多く,6日余に発症した人もいた。

 患者の発生状況:図2に示したが,3日から6日と幅を持ったピークであった。

 細菌検査:食中毒原因菌の検索のため,飲水については5回,のべ12ヵ所から1〜5lを採水し,これを0.45μmのメンブランフィルターで濾集したフィルターを,また,重症と思われる患者57名のキャリーブレアーでの採便検体1mlを,それぞれCEM増菌培地に接種して1夜培養した後,Skirrow培地で分離培養した結果,患者便57検体中42検体(76.7%)からC. jejuniが検出された。しかし,飲水からは検出できなかった。

 雑感:当県において昭和58年から再三,4月下旬から5月にかけて湧水,または山水利用の簡水などによる本菌の食中毒が発生している。本菌の性状からして,当県のこの時期の気温,水温の状況ではこの菌が繁殖することは不可能と思われる。だが,自然放流状態にある飲水からも集団食中毒が発生している。本菌は100個程度で発症するとの報告もあるが,今回の約400名の発症者が飲んだ水に104個の菌量が入っていれば足りるとすれば,野鳥の便1個で充分かもしれないが,例年となると偶然性が非常に高過ぎよう。かといって,山菜ブームや雪国でのスキーヤーとの関わりは薄いとみてよい。水の汚染原因は不明である。



新潟県衛生公害研究所 石月 要平


表1.症状
図1.潜伏時間
図2.日時別発生状況





前へ 次へ
copyright
IASR