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Vol.9 (1988/5[099])

<特集>
ロタウイルス 1986〜1987


 厚生省サーベイランス事業における下痢症患者は,これまで「乳児嘔吐下痢症」と「その他の感染性下痢症」として集計されていたが,1987年から「乳児嘔吐下痢症」と「感染性胃腸炎」として集計されることとなった。あわせて年齢区分を0〜4歳まで1歳きざみとし,4歳以上はすべて「感染性胃腸炎」として集計されることとなった。

 図1のように,この2疾病は毎冬期に流行を繰り返している。1981/82年〜1984/85年の4シーズンは12月〜1月に鋭いピークがみられたが,1985/86年はたちあがりが遅れてピークが1月となり,また,1986/87年,1987/88年は1月〜2月になだらかなピークとなった。年次別の患者発生数は乳児嘔吐下痢症が定点当たり47〜66,感染性胃腸炎が105〜155と年により多少の増減があるが,他の疾病のような流行年,非流行年の別はみられない(表1)。

 ロタウイルスはこの流行の時期に一致して多数検出される(表2)。

 ロタウイルスは下痢症患者の便中に大量に含まれるので,電顕によりウイルス粒子を検出できるほか,R‐PHA,ELISA,Latex凝集反応,IAHAなどの免疫学的方法によって便材料から直接検出される。乳児嘔吐下痢症は毎年冬期に流行するので,8月から翌年7月までの期間を流行単位として,過去7シーズンについて検出方法別のロタウイルス検出数をまとめたのが表3である。初期の報告では電顕による検出が主であったが,最近ではR‐PHAによる検出が6〜7割となり,全体の検出報告数も増加している。サル腎細胞などを用いた培養による分離は例数が限られており,まだ血清型別の成績は報告されていない。また,便以外の検体からの分離は報告がない。

 1987年の患者報告から年齢区分が細分化されたので,乳児嘔吐下痢症患者のうち45%を0歳,39%を1歳が占めることが明らかとなった(表4)

 一方,ロタウイルス検出例の年齢分布も同じく0〜1歳が8割を占めるが,さらにロタウイルスは成人からも検出される(表5)。

 1986/87シーズンにおいて臨床診断名の記載されたウイルス検出例についてみると,乳児嘔吐下痢症と診断された637例中ロタウイルス検出例は565例(88.7%),小型下痢ウイルス14例,アデノ39例,エンテロ19例であるのに対し,感染性胃腸炎と診断された145例中ロタウイルス検出例は72例(49.7%),小型下痢ウイルス6例,アデノ35例,エンテロ30例,その他2例であった。

 冬期におけるこの2疾病の患者発生パターンはよく平行しているので、感染性胃腸炎として報告される患者の病因としてもロタウイルスが大きいウエイトを占めているとみられる。



図1.乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎の患者発生状況 (厚生省感染症サーベイランス情報)
表1.年次別乳児嘔吐下痢症および感染性胃腸炎患者発生状況 (感染症サーベイランス情報)
表2.年月別ロタウイルス検出状況(1986年4月〜1988年3月)
表3.ロタウイルスの検出方法*
表4.年齢別乳児嘔吐下痢症および感染性胃腸炎患者発生状況 1987年 (感染症サーベイランス情報)
表5.年齢別ロタウイルス検出状況(1986年8月〜1987年7月)





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