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1987年12月に東京千代田区の一企業職場内で,食中毒様症状を呈した集団発生が報告された。病原検索の結果,患者糞便から複数のウイルスが同時に検出されたので,以下にこの事例の概要を報告する。
事件の報告は,12月4日に企業内の医務室から,忘年会が行われたのちに急性胃腸炎症状を呈した患者が発生した旨保健所に通報された。保健所の調査によれば,12月2日夕食時に職場関係者20名で忘年会があり,そのうち4名が12月3日13時30分から24時にかけて発症していた。主症状は嘔気・嘔吐(3/4),腹痛(3/4),下痢(2/4),37.7℃と38.4℃の発熱(2/4)であり,その他の症状は認められなかった。忘年会では参会者全員が生カキを食べており,その他に患者4名は12月2日16時頃と3日の昼食時に分けてシュークリームを食べていた。
12月4日と12月5日に患者糞便,会食調理者糞便,食品残品,参考品を採取し,食中毒起因細菌の検索を行ったが,いずれも陰性であった。ウイルス検索は3名の患者と1名の非発症者の糞便を対象とし,FL,HEp2,RD,BGM細胞を用いた分離試験を行い,一部については電子顕微鏡観察を併用した。
ウイルス分離試験に用いた組織培養細胞の中ではRD細胞の感受性が高く,被検体全てからウイルスが分離された。分離株は3代まで継代し,市販の中和試験用混合抗血清,単味抗血清により,Echo14と同定された。電子顕微鏡観察は糞便量が少なかったため,2名の患者については実施できず,患者と非発症者各1名について行った。その結果,患者糞便はSRV陽性,非発症者糞便は陰性であった。検出されたSRVはNorwalk様ウイルスの形態を示し,これまでに東京都内で検出されたSRVと類似していた。SRV以外のウイルス粒子,たとえばロタウイルス,アデノウイルスなどは認められなかった。
以上の結果により,この事例は1)非細菌性の胃腸炎であること,2)共通食にカキが含まれること,3)症状はこれまでの検索により示されたSRVに起因する胃腸炎の特徴を示していることなどが明らかとなり,検出されたSRVによる食中毒様集団発生と推定された。一方,非発症者を含めて被検者全員から検出されたEcho14の胃腸炎起因性については判断が困難である。病原ウイルス検出情報によれば,Echo14分離例の臨床症状は発熱と髄膜炎が多く,胃腸炎は少ない。また,組織培養が広く行われるようになった当初は,腸管内で増殖する多くのウイルスと胃腸炎の関連を示唆する報告もなされていたが,電子顕微鏡が胃腸炎起因ウイルスの検索に用いられ,ロタウイルス,Norwalk virusなどが検出されるようになってからは,ほとんど注目されていないなど,否定的なものが多い。しかし,本事例の原因食をカキとして平均潜伏時間を計算すると約23時間となり,これまでのSRVによる事例の潜伏時間より短い。この理由として,SRV,Echo14の重感染による影響も考えられ,Echo14と胃腸炎事件の関連を全く否定することもできない。
東京都立衛生研究所 林 志直,関根 整治,安東 民衛,薮内 清
ウイルス検査結果
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