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Vol.9 (1988/8[102])

<外国情報>
台湾南部(高雄・屏東)におけるデング熱の流行について


 民国76年11月19日(1987年)台北市の某医院から,一女性が数日来,全身掻痒,四肢の発疹等のため来診したと,衛生署防疫処に報告があった。患者は10月郷里の屏東県東港鎮に帰り,11月5日台北市に戻り発病した。臨床症状および前駆症からみて帰省中にデング熱に感染した疑いがあり,血清を伝染病研究所に送り,検査を依頼した。同時に患者が行った屏東県東港鎮にはデングの疫学的調査と防疫の状況を照会した。11月21日防疫処と高雄市衛生局から三民区でデング熱様の患者が多数発生し,目下蔓延中であるとの報告がきた。台湾地区の各衛生環境保護主管は,ただちに防疫対策をとった。

 11月20日全面的に防蚊工作を開始し感染源であるネッタイシマカおよびヒトスジシマカを徹底的に殺虫剤の噴霧により殺し,発生源である水溜りや容器の清掃をするように市民に呼びかけた。また,患者発生があった時は衛生署防疫処は,流行状況を調査すると共に屏東県東港鎮および高雄市三民区の100世帯,812人に対して家庭訪問を行い,患者の有無(発熱,頭痛,発疹,筋肉痛,関節痛および全身掻痒等の一種以上の症状のある)からデング熱の疑いのある者を調査した。その結果,110人のデング熱の疑いのある者がみつかった。その罹患率は13.5%で,臨床症状で発熱のあった者100%,頭痛85%,筋肉痛71%,発疹54%,関節痛49%,全身掻痒45%等が含まれていた。患者の性比は1:0.75で,平均年齢は男21歳,女31歳で,31歳以上の女性の大半は,家庭の主婦で罹患率が高かった(図1)。なお,家庭内感染はなく,散発的に発生していた。

 今回のデング熱の発生は,本年10月屏東県東港鎮で最初に患者が発生し,約4週間後に高雄市に蔓延したが(図2),11月まで報告はなかった。しかし,高雄,屏東地区の開業医は,9月からデング熱の疑似患者があったという。今回の流行は12月8日で終息したが,この期間の患者数は1,224人が発生した。

 伝染病研究所では,これらの蚊を採集してウイルス分離を試みたところ,デング熱の1型が分離された。患者血清の同定は目下検査中である。

 台湾におけるデング熱の流行は,1902年南部の流行の他に,1915年,22年(澎湖島),24年,27年,31年(台南),42年(全島)にあり,以後81年の高雄県の小琉球島の流行までなかった。この小琉球島の流行<註>は,フィリピン海域に入り,だ捕抑留され,釈放帰国した71人の漁民から患者が発生した。このように台湾では従来デング熱はないが,東南アジア諸国から帰国した漁民,船員,商人,軍人等が持ち込むものである。

 (疫情報導,中華民国76年(1987年)12月出版,防疫処提供)

 <註>島民16,000人中12,000人が感染したという。患者血清38検体が予研に送付され,中和試験の結果TypeUであることが確認された(昭和56年度予研年報)。



帝京大学医学部衛生学教室 緒方隆幸


図1.年齢・性別侵襲率(1987年11月20日までの報告)
図2.週別発病数(1987年11月20日までの報告)





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