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1987年1月から感染症サーベイランス情報にSTD(Sexually transmitted disease)定点が新設された。1987年1月〜12月に「陰部クラミジア感染症」として報告された患者数は11,302で,性比は3.4と男が多い。患者の年齢は成人に幅広く分布し,男は25〜29歳,女は20〜24歳が最も多い(表1)。月別の発生数の変動は小さい
(本号4ページ参照)。
1987年1月から1988年7月までに14機関から639のクラミジアの検出が報告された。検出方法は蛍光抗体法(FA)によるものが434と最も多く,次いで細胞での分離が136,酵素抗体法(EIA)72である。現在,クラミジア検査法の判定については次のようになる。
分離法:封入体でトラコマチスとシッタシの区別は可能。もしくはトラコマチス特異的単クロン抗体による染色(FITC等)で鑑別可能。
FA:トラコマチス特異単クロン抗体を使用する。シッタシは検出されないから,検出されたクラミジアはトラコマチスと考えて良い。
EIA:キットの説明では「泌尿器または生殖器からの検体中のクラミジアトラコマチスの検出」となっている。しかし,シッタシと交差があり,検出された抗原が全てトラコマチスとはいえない。ただし,検出部位を泌尿生殖器に限定すればトラコマチスと考えて良い。
以上の点を考慮し,本情報においては分離法とFAによる検出例はトラコマチスNT(型別せず)として,また,EIAによる検出例はクラミジアNT(種別せず)として報告されている(したがって,報告の段階ではEIAのキットの説明とは一致していない)。
クラミジアが検出された検体の種類は泌尿生殖器由来が633,咽頭ぬぐい液6である。
臨床診断名が記載されていた例は442で,陰部クラミジア感染症306,その他(非淋菌性尿道炎など)127,淋病様疾患6,トリコモナス症2,尖圭コンジローム1である。
泌尿生殖器由来の検出例について臨床症状を性別にみると,男は泌尿生殖器疾患がほとんどであるが,女は無症状のものが3分の1を占める(表2)。これは妊娠などを対象に産婦人科患者の調査を実施している機関からの報告が含まれているためであり,陰部クラミジア感染が男ではほとんど顕性感染となるのに対し,女では不顕性感染が多いことによる。
泌尿生殖器由来の検出例の年齢分布を性別にみると,全例16歳以上で,男は20代,30代,40代の順に多く,女は20代,30代,10代の順に多い(表3)。また,そのうち泌尿生殖器疾患の症状があったものに限ると,女は30代と10代がほぼ同数である。性比は10代<20代<30代<40代と男性が高くなっており,表1のサーベイランスの患者の性・年齢分布と同様の傾向である。
咽頭ぬぐい液からの検出例は全例が病院からの報告で,EIAで検出されているのでシッタシの可能性もある。表4に6例の内訳を示した。小児は非STDと考えられるが,0歳児ではトラコマチスの産道感染の可能性を考える必要がある。成人ではSTD関連として咽頭からのトラコマチス分離例が報告されているので,シッタシとの鑑別のためには,FAまたは培養を併用する必要がある。
表1.年齢階級・性別陰部クラミジア感染症患者発生状況 1987年 (感染症サーベイランス情報)
表2.泌尿生殖器由来のクラミジア検出例の性別臨床症状 (1987年1月〜1988年7月)
表3.泌尿生殖器由来のクラミジア検出例の性別年齢分布 (1987年1月〜1988年7月)
表4.咽頭拭い液からのクラミジア検出例の臨床症状 (1987年1月〜1988年7月)
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