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日本では異型肺炎はほぼ4年ごとに流行を繰り返している。感染症サーベイランス情報の異型肺炎患者発生報告数は1984年の流行後減少していたが,1987年末から再び増加し始め1988年の流行が予測された。1988年は3〜4月に一時減少したのち,徐々に増加し続け,10〜12月に予測どおりの流行となった。12月末に減少したものの1989年に入ってまだ流行の余波が残っている(図1)。流行のたち上がりが前回流行では7月にあったのに比べ今回は10月と遅れ,ピークの高さは前回と同程度であるが累積患者報告数は1984年を下回っている(図2)。
患者の年齢分布は非流行年は0〜4歳の割合がもっとも多いのに対し,流行年は5〜9歳の割合が多くなる。1988年は5〜9歳が41.7%,0〜4歳が38.7%,10〜14歳12.8%,15歳以上が6.8%であった。0〜4歳の内訳では年齢につれて1.4,4.3,7.1,10.8,15.0と増加している(図3)。10歳以上が少ないのは異型肺炎の患者報告定点に小児科が多く含まれているためと考えられ,成人の患者の割合は実際はもっと多いと思われる。
図4に非流行年であった1986年に対する1982年〜1988年の各年の一定点当たり年間患者報告数の比をブロック別に示した。北海道は常に患者発生が少なく,他の地域と流行状況が異なっている。これを除き,1984年の流行はほぼ全国的であったが,1988年は東北,関東甲信越が中心で,中,四国と九州は少なかった。西日本を中心になお流行が続くとみられる。
病原体情報において,肺炎マイコプラズマの検出は原則として個票で報告されている。現在,報告数は少ないが,大部分限られた特定の機関のサーベイの報告なので,流行の傾向をよく反映しているとみられる(表1,第6巻1号参照)。1988年の検出報告としてはこれまでに147株(一部は病原菌検出報告書による)が報告され,これを月別にみると異型肺炎流行のピークと一致して10〜11月が多い(表2)。
個票で報告された53例について肺・気管支材料からの分離報告はなく,全例鼻咽喉由来で,人工培地で分離された。年齢分布は異型肺炎患者の分布と平行して5〜9歳,0〜4歳が多くほぼ同数である(表3)。臨床症状では発熱が90%,ついで上気道炎57%で,下気道炎・肺炎は34%に報告された。また,臨床診断名に異型肺炎か記載された例からの分離報告としては肺炎マイコプラズマ20例のほか,鼻咽喉材料からはコクサッキーB1型,エコー3型,単純ヘルペス1型が報告され,また,便材料からコクサッキーB3型,ロタ,アデノ1型の各1株の分離例が報告された。
さらに,京都市衛研が1988年9月〜1989年1月までに臨床診断が異型肺炎以外の患者18例(インフルエンザ様疾患,感染性胃腸炎など)から他のウイルスと同時に肺炎マイコプラズマが検出されたことを報告している。分離されたウイルスは鼻咽喉材料からインフルエンザA(H1)11株,単純ヘルペス1型3株,コクサッキーA10型1株,および便材料からロタ1株,鼻咽喉と便由来のアデノ2型1株である。肺炎マイコプラズマ流行時にはこれら疾患についてマイコプラズマ感染の関与を考える必要があることが示唆される。
図1.異型肺炎患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図2.異型肺炎患者年間報告数(感染症サーベイランス情報)
図3.年別異型肺炎患者年齢分布(感染症サーベイランス情報)
図4.ブロック別患者発生状況(感染症サーベイランス情報)(1986年に対する各年の一定点当たり患者報告数の比)
表1.年別肺炎マイコプラズマ検出数(個票報告分)
表2.検出月別肺炎マイコプラズマ検出数,1988年
表3.年齢群別肺炎マイコプラズマ検出数(個票報告分)
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