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日本の1988/89シーズンのインフルエンザの流行は12月第3週と2月第1週に二峰性のピークがあった。患者発生は全国的だったが,合計発生数は過去10年間で1986/87シーズンに次いで少なかった。Aソ連(H1N1)型が主に分離された。
厚生省結核・感染症対策室に報告された集団発生報告(図1)によると,このシーズンの集発中インフルエンザウイルスが検出された例は11月に始まり,全国各地に拡大した。年末年始に一旦減少したが再び増加し,2月第1週がピークとなった。3月末には全国的な流行は終息したが,北海道では4月以降も集発がみられた。発生数は合計21万人で,これは過去最低であった1986/87シーズンの11万人を上回ったものの,前年57万人の半分以下だった。一方,感染症サーベイランス情報における報告数は1週早く1月第4週がピークとなった(図2)。一定点当たり報告数は1988年第40週〜1989年第39週までの累計で130.68人で1987年第40週〜1988年第39週までの累計178.91人を下回った。したがっていずれの報告においても今シーズンの流行は前シーズンよりも低レベルであった。患者年齢では5〜9歳28%,0〜4歳27%とほぼ同じ割合で,9歳以下が過半数を占めるが,20歳以上も20%みられている(表1)。
ウイルス分離としては,前シーズン終了後4〜6月にA(H1N1)型が1年間のブランクをおいて6株検出報告された。1988/89シーズンに入ってA(H1N1)型が10月末に長崎で検出された後,11月〜12月に全国的に拡がり,1月をピークとして4月までに1 ,497株が検出報告されている。
A(H3N2)型は1月をピークとして46株報告された。B型は3月以降に増加し,32株が報告された(表2)。
ウイルスが分離された年齢は学童を中心に,14歳以下が82%を占めた(表3)。
A(H1N1)型ウイルスは細胞によって分離されたものが85%,発育鶏卵によって分離されたものが10%,細胞と発育鶏卵の両者によって分離されたものが5%報告された。
国立予防衛生研究所ウイルスリケッチア部ウイルス3室でフェレット感染血清を用いて実施した分離株の抗原分析の結果(表4,5)によれば,全国地方衛生研究所から送付された分離株のうちA(H1N1)型は3群に大別された。この年のワクチン株で代表される群の割合が高いが,抗原性に差異のみられる2群がそれぞれ23%および12%みられた。A(H3N2)型ではワクチン株から抗原的に差のみられる株が18.4%検出され,一方,B型の分離株はすべて差異のある群に分類された。
1989/90シーズンについては,8月神奈川県でB型,9月,11月横浜市でA(H3N2)型およびB型,11月神戸市でA(H1N1)型が散発例から,さらに集発からのウイルス分離が11月横浜市(B型)および東京都(A(H3N2)型)から報告されている。
世界では1988/89シーズンはA(H1N1)が最も多く,地域によってはA(H3N2),米国ではB型が流行した。3月以降の分離株においてB/山形/16/88の他は特にめだった変異株の出現は報告されていない。
図1.インフルエンザ様疾患患者発生状況(インフルエンザ様疾患集団発生報告週報:厚生省結核・感染症対策室)
図2.インフルエンザ様疾患患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
表1.年齢群別インフルエンザ様疾患患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
表2.月別住所地別インフルエンザウイルス検出状況(1988年8月〜1989年7月)
表3.年齢群別インフルエンザウイルス検出状況(1988年8月〜1989年7月)
表4.1988/89 インフルエンザシーズン分離株の抗原分析
表5.1988/89 インフルエンザシーズンに分離されたウイルス総数と変異株の割合
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