|
1989年のヘルパンギーナの流行は,感染症サーベイランス事業開始以来最低であった1988年をさらに下回った(表1)。流行は5月末から立ち上がり,全国集計では第29週(7月第3週)をピークとして9月末には終息した(図1)。都道府県別にみたピークは,例年同様南から北へ動き,最も早かった大分県は第24週,最も遅かった秋田県は第31週であった。
ヘルパンギーナ患者の年齢別割合は,多い順に1,2,3,4,0歳で,例年通り4歳以下が84%(前年は86%)と大部分を占めた(表2)。
1989年にヘルパンギーナと診断されたものから検出されたウイルス報告は516で,うち244(47%)がコクサッキーウイルス(C)A4型であった。CA4以外のCAの検出報告は少なかった。
CA4はヘルパンギーナ患者から検出されるウイルスのうち,毎年上位3位以内に入る型で,1982〜1989年の累積では最も多く,合計検出数3,974中1,015(26%)を占めた(表3)。CA2,3,4,5,6,10型の検出報告ではヘルパンギーナ患者からの検出が占める割合が高く,1989年はそれぞれ56〜85%であった。また,CA群ウイルスのうち分離報告が少ない型の1つであるCA8が1989年に47例分離され,このうち36(77%)がヘルパンギーナ患者からの検出であった。この他には1989年に流行がみられたCB4分離例308中34,CB5分離例391中15,エコー11分離例431中13がヘルパンギーナと診断された。これらの型はいずれも7月をピークとして検出された(表4)。地域別分布をみると,CA4は25府県市,CA6は13府県市,CA5は10府県市,CA3,8,10は5県市で検出された。
CA4検出例の年齢は4歳以下が86%を占め,ヘルパンギーナ患者の年齢分布とよく一致した(表5)。
CA4が検出されたヘルパンギーナ患者244例の臨床症状としては発熱145,口内炎65,上気道炎18,髄膜炎3,水疱3,胃腸炎,発疹,下気道炎・肺炎,リンパ節腫脹が各2,角・結膜炎,間節筋肉痛各1が報告された。
ウイルスが検出されたヘルパンギーナ患者516例について検体の種類をみると,鼻咽喉からの検出例が445,便からは57,鼻咽喉と便の両方からは16で,うちCA4検出例はそれぞれ209,26,9であった。
ウイルス検出方法をみると,CAウイルスは乳のみマウスによって分離される割合が多い。CA4分離報告244中,乳のみマウスによる分離は202,培養細胞による分離が42,この両者で分離陽性となった例が17であった。CA6については乳のみマウス39に対して細胞2,CA8は36と0,CA10は27と1,CA5は21と4,CA3は8と5であった。さらに,これ以外に乳のみマウスと細胞の両方で陽性となった例がCA6で2,CA3で2例報告された。CB群では培養細胞による分離が多く,CB4の場合,乳のみマウス2に対し培養細胞30,両方による陽性例が2であった。これ以外のウイルスはすべて培養細胞によって分離された。
1990年5月末の時点では,1月以降のヘルパンギーナ患者からのウイルス検出として,HSV1が1月,2月に各1,3月に2例が報告されたのみである。
図1.ヘルパンギーナ患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
表1.年別ヘルパンギーナ患者発生状況,1982−1989年(感染症サーベイランス情報)
表2.年齢群別ヘルパンギーナ患者発生状況,1989年*(感染症サーベイランス情報)
表3.ヘルパンギーナと診断されたものからの年別ウイルス検出状況(1982〜1989年)
表4.ヘルパンギーナと診断されたものからの月別ウイルス検出状況(1989年)
表5.ヘルパンギーナと診断されたものからの年齢別ウイルス検出状況(1989年)
|