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Vol.11 (1990/7[125])

<国内情報>
コクサッキーB群5型ウイルスを検出した急性胃腸炎の集団発生について−長野県


 コクサッキーB群5型ウイルス(CB5)による臨床症状は,無菌性髄膜炎,上気道疾患,発疹症と多彩であるが,急性胃腸炎の病原としての報告は少ない。

 我々は,保育所で発生した集団下痢症の病原としてCB5を検出したのでその概要を紹介する。

 1989年12月11日頃より,伊那保健所管内のI保育所でかぜ症状の園児が出始めているとの届出があった。保健所による疫学調査によると,主症状は下痢,嘔吐,腹痛であり,その他発熱,咳,鼻汁が若干みられた。患者はいずれもが2〜3日の発症後軽快していた。患者発生のピークは12月18日〜20日で,この3連日園児78名中21〜22名が欠席していた。園児の家族にも患者がみられ,近くの保育所,小・中学校にも少数の患者が認められた。I保育所における患者数は86名(うち職員8名)中35名(うち職員2名)であり,発症率40.7%であった。表1に患者の臨床症状を示したが,下痢がいちばん多く51.5%,以下腹痛,嘔吐の順であった。細菌検査は保健所で実施したが,病原細菌は検出されなかった。ウイルス検査成績を表2に示した。呼吸器系ウイルス,ロタウイルス,小型球形ウイルス(SRV)は陰性であったが,FL細胞とRD−18S細胞を使用した細胞培養法により,1名の患者ふん便検体からCB5が検出された。この分離株とCB5標準株を抗原として中和試験を実施したところ,両抗原とも8名中4名に有意抗体上昇が認められた。検査開始時点では病原としてSRVが想定されたので,東京/510−86抗原に対するウエスタン・ブロット(WB)法を東京都衛研に依頼したが,その結果,5名中1名の対血清に有意抗体上昇が認められた。

 以上より,今回の集団発生は期せずしてCB5による流行と判明したが,同時にSRVによる散発例も把握された。なお,感染経路については,給食,飲料水等を介した経口感染は否定的であった。



長野県衛生公害研究所 西沢 修一,中村 和幸,小山 敏枝


表1.患者の臨床症状
表2.ウイルス検索成績





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