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厚生省サーベイランス情報における下痢症患者は,1981〜1986年まで「乳児嘔吐下痢症」と「その他の感染性下痢症」として集計されていたが,1987年から「乳児嘔吐下痢症」と「感染性胃腸炎」とし,かつ,4歳以上はすべて「感染性胃腸炎」として集計されている。感染性胃腸炎と乳児嘔吐下痢症の患者発生はともに夏から秋に低下し,冬期に増加する類似したパターンを繰り返している。しかし,1988/89以降,乳児嘔吐下痢症のピークが低下し,一方,感染性胃腸炎の患者発生は依然として冬期に高いピークを示し,夏期にも相当数が報告されるなど両者の差がめだつようになった(図1)。
1982年8月〜1991年3月までの9シーズンに,臨床症状および臨床診断名に胃腸炎(嘔吐症,下痢症,食中毒を含む)が記載されていた例の便からのウイルス検出報告は11,604で,各シーズン約1,000〜1,700件である(1990/91シーズンは中途暫定数)(表1)。内訳はロタ65%,エンテロ15%,小型下痢ウイルス10%,アデノウイルス10%,およびレオが6例である。
ウイルス検出例の年齢(表2)は,ロタは0,1歳がほぼ同数で0〜1歳が76%,4歳以下が91%を占める。0歳児では6ヵ月未満は8%,6ヵ月以上が30%と月齢が高い方が多い。小型下痢ウイルスは0〜1歳が22%,4歳以下が37%に対し,15歳以上が22%,年齢不明(成人例がほとんどと考えられる)が22%を占める。エンテロは0〜1歳が35%,4歳以下が61%を占め,5〜9歳は27%である。アデノは0〜1歳が59%,4歳以下が81%を占め,5〜9歳が14%,10歳以上は少ない。性別にみるといずれのウイルスも男が多く,性比は1.36〜1.74であった。
臨床診断名として乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎が報告された例について月別検出数を表3に示した。乳児嘔吐下痢症においてはウイルス分離数の89%がロタウイルスで,乳児嘔吐下痢症のカーブと一致して1〜2月をピークにロタウイルスが分離されている。感染性胃腸炎においては,ロタウイルスは60%,エンテロウイルスが13%,小型下痢ウイルス,アデノウイルスがいずれも14%である。感染性胃腸炎においても1,2月はロタウイルスの割合が高く,夏期はエンテロウイルスとアデノウイルス,12月は小型下痢ウイルスとアデノウイルスの割合が比較的高くなる。
ロタウイルス検出例について臨床診断名が乳児嘔吐下痢症および感染性胃腸炎と記載されていた例数を各シーズンごとに集計すると,1987/88シーズン以降,4歳以上の年齢群だけではなく,2〜3歳群および0〜1歳群においても乳児嘔吐下痢症と診断される割合が低下している(表4)。
一方,都市立伝染病院入院例におけるロタウイルス検出例は検査法の普及につれて増加し,1983〜1990年累計367例が報告された。これらは大部分小児科病棟入院例の報告である。入院月は1月(104)をピークに冬期に集中し,5〜10月は少ない(合計17)。入院例の年齢分布は0歳150(41%),1歳138(38%),2歳44(12%)と低年齢に集中し,成人は2例であった。性比は1.6,特に月例6ヵ月以上の0歳児の入院例において男68:女30と男が多くなっている。これらの成績はいずれも前述の一般のロタウイルス検出状況と一致する。10例においてロタウイルスと細菌が同時に検出された(C. jejuni6例,Salmonella O4 3例,EPEC血清型1例)。この10例を除き,ロタウイルスのみが検出された例について報告された臨床症状を図2に示した。他の胃腸炎起因病原体の混合感染を否定することはできないが,これらの小児科病棟入院例においてはいずれも重篤な症状がみられている。とくに嘔吐(82%)および水様便(85%)の高率が特徴的である。
図1.乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎の患者発生状況(厚生省感染症サーベイランス情報)
表1.流行シーズン別胃腸炎患者の便からのウイルス検出状況(1982年8月〜1991年3月)
表2.便からウイルスが検出された胃腸炎患者の年齢分布(1982年8月〜1991年3月)
表3.検体採取月別便からのウイルス検出状況(感染性胃腸炎と乳児嘔吐下痢症)(1982年8月〜1991年3月)
表4.乳児嘔吐下痢症と感染性胃腸炎患者の便からのロタウイルス検出状況(1982年8月〜1991年3月)
図2.ロタウイルスが検出された入院症例の臨床症状 1983〜1990年(都市立伝染病院)
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