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Vero毒素産生性大腸菌(VTEC)のうち,腸管出血性大腸菌として特に注目されているO157の静岡県内における検出状況について,O157:HNMによる家族内感染と推定された事例を中心に報告する。
1987年10月から1991年8月までに県内で検出された代表株は14株で,その内訳は散発下痢症患者由来8株,患者とその家族3名から検出された4株,健康保菌者由来1株およびと畜場搬入の牛(便)から分離された1株であった(表参照)。なお,これらの分離株について当センターでVero細胞毒性試験,PCR法によるVero毒素産生性を試験したところ,12株が陽性であった。さらに,VT型別試験では,8株がVT2産生株,3株がVT1&2産生株および1株がVT2vh産生株と判定された。今回VTを産生したヒト由来の11株のなかで5歳以下の幼児での事例が約半数(5件:45.5%)を占めた。なお,表中のNo.4〜7は家族内感染と推定された分離株で,その概要は次の通りである。
1991年1月11日に県立K病院の担当医から所轄保健所に下痢,血便を主症状とし,溶血性尿毒症症候群(HUS)が疑われた男児(1歳9ヵ月)が入院,病原大腸菌O157が検出された,との通報があった。
翌日,保健所が家族に対して行った健康調査によれば,家族は患者(三男)を含めて両親と兄2人の計5人で,当人以外臨床症状はなく,特記すべき事項はなかった。この時に行われた検便の結果,父親と兄2人の3人から患者株と同一性状を有するO157:HNMが検出された。この3株に患者由来株を加えた計4株についてVero細胞毒性試験を行ったところ,Vero細胞にCPE(cytopath-ogenic effect)を示し,PCR法,bead-ELISA法によるVero毒素型別試験でいずれもVT2産生株と判定された。また,プラスミド・プロファイルの試験においても4株は同一パターンを示した。さらに,患者家族の本菌に対する抗体検査で,血清が採取できた母親に有意の抗体価が認められたことなどから,この事例は同一派生株の暴露による家族内感染と推定された。
感染経路の調査では,食品は事件を探知した時点ですべて処分されていたため検索は不可能で,患者の住居付近の井戸水あるいは浄化槽の水についても大腸菌陰性であり,感染源を特定することはできなかった。
なお,家族内感染の調査は県立こども病院,沼津保健所,県保健予防課が行った。また,PCR法,bead-ELISA法によるVTの型別試験は京都大学医学部竹田美文教授の協力を得た。
静岡県衛生環境センター
大畑克彦 森 健 三輪好伸 増田高志 内藤 満 赤羽荘資 伊藤機一
静岡県内におけるVero毒素産生性大腸菌O157の検出状況
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