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わが国のA型肝炎ウイルス(HAV)抗体の50%保有年齢は45歳前後(1988年)と推定され,30歳代以下ではほとんどがHAV抗体を保有していない状況である。一方,最近のA型肝炎患者発生状況は単一感染源による集団発生よりは散発例の小流行が反復する形態が目立ち,日常生活における患者を中心とした2次感染の状況について把握する必要がある。そこで,愛知県内の病院・保健所の協力を得てA型肝炎患者とその家族の血清と糞便を採取し,HAV感染の有無を調べた。
対象者は県内8病院にA型肝炎で入院した患者50名とその家族126名(45家族)で,検査材料として患者の便35件と血清50件,家族の便218件と血清49件を用いた。便の10%乳剤遠心上清は,HAT−EIAキット(デンカ生研)を応用したELISA法とPCR法によりHAV抗原の検出を行い,血清はHAM−EIAキットにて抗HAV−IgM抗体を測定した。
患者の便では,PCR法にて21例(60%)からHAV抗原が検出され,発症後5週を経過したものもあった。患者の血清からはすべて抗HAV−IgM抗体が検出された。家族の便からは,ELISA法で患者発生後3〜4週の便4例からHAV抗原が検出され,このうち3名はその後肝炎を発症した。さらに,PCR法にて2名の感染者を確認したが発症は確認されていない。その他,IgM抗体陽性者を含めると,45家族中13家族で複数のHAV感染者が確認され,そのうち10家族(22%)12名は発症や抗原検出の間隔から家族内感染の可能性が強いと思われた(表1)。発症間隔は2〜5週で,発症前2週から発症前後が感染源として重要と思われた。家族内の感染源が子供(4〜14歳)であった場合が8例と多く,感染源が大人であった2例も2次感染は子供であり,今回のHAVの家族内感染調査においては子供との関連性が注目された。また,今回の調査中,某保育園において図1に示す園児Bと保母がほぼ同時に発症したため,園児の検便が実施された。患者発生後3週の便1例(園児C)からELISA法とPCR法にてHAV抗原が検出され,その園児の発症は確認されなかったが,5週後に父親が発症し,家族内感染が推定された(表1,家族No.8)。別の園児Aの母親は,保育園でA型肝炎の発生があった4週後に発症しており,PCR法にて便から増幅されたcDNAの塩基配列が園児Cと一致していたことから感染源も同一と考えられた。調査対象者の年齢別HAV感染率を比較すると,5〜14歳と30〜34歳にピークが認められた。感染症サーベイランス事業の患者報告でも5〜14歳と30〜44歳に患者数のピークがあり,その原因の1つとして家族内感染が考えられる。
愛知県衛生研究所 山下照夫 栄 賢司 石原佑弌 磯村思无
国立予防衛生研究所 戸塚敦子 森次保雄
表1.家族内感染が推定された事例
図1.感染源が保育園と推定された家族内感染例
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