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Vol.13 (1992/1[143])

<国内情報>
1991年春に大分県で発生したSRSVが原因と思われる集団下痢症2例について


 第1例:竹田保健所管内において1991年4月17日から21日にかけて腹痛,嘔吐,下痢を主症状とする食中毒様の事件が発生した(表1,2)。患者は小学校11校,中学校4校,養護学校1校におよび,その数は2,370名中877名(発症率37.0%)であった。学年ごとの有症率は中学生がやや高い傾向を示したが,潜伏時間は平均46時間で,いずれも2〜3日で回復している。

 推定原因食品は共同調理場で作り各学校へ配送している学校給食と思われ,4月15日から18日の間患者発生のあった全校に配送されたのは17日の昼食のみで,献立は麦御飯,すきやき風煮物,味付のり,酢の物であった。起因菌の検索は患者便17件,吐物1件,食品(検食)9件,給食従事者便28件について実施し,患者便1件からSalmonella Infantis' (O7)を,患者便4件および給食従事者(健康者)便2件からウェルシュ菌を分離したが,食中毒の原因菌としての確定はできなかった。また,使用水(上水道)の検査では一般細菌,大腸菌群ともに陰性であった。臨床症状,潜伏時間から推定してSRVの可能性が疑われたので,21日に採血と患者便の採取を再度依頼し,福岡県衛生公害センターで検査を行った。結果は,患者便6件中3件からSRSVを検出し,患者血清によるIEMでは4名検査を行い,すべて急性期0から回復期2+〜4+の抗体上昇がみられ,この事件はSRSVによる集団急性胃腸炎と断定した。

 第2例:日出保健所管内で1991年4月16日某小学校の児童ら298名(児童282名,その他16名)が山頂の公園に遠足に行き,同日午後から18日にかけて254名(85.2%)が嘔吐,腹痛,下痢を主徴とする食中毒様症状を呈し,大半が町内の病院で治療を受けた(表3,4)。

 患者の共通食品は公園の飲用水のみで,この水は湧水を滅菌後ポンプアップして高置水槽に貯留し公園内に配送しているが,事件当時は全く滅菌されていなかった。起因菌の検索は,患者便15件,飲用水4件について実施したが,患者便からは,Campylobacter coli,病原大腸菌血清型(O18)を各1件検出した。飲用水では水源,貯水タンク,高置水槽,水飲場のすべての個所で生菌数150〜540/ml,大腸菌群陽性で,腸管病原性大腸菌は組織侵入性大腸菌O28a,cを分離した。事件発生当初の疫学調査からSRVが疑われたので検体の採取を依頼したが,十分な便が取れず,急性期血清も1件のみであった。細菌学的検査結果から起因菌の確定はできなかったので,回復期血清の採取を依頼し,1名のペア血清と5名の回復期血清について福岡県衛生公害センターでウイルス学的検索を行った。IEM法で抗原はFukuoka-88Kを使用し,ペア血清で0から3+上昇し,回復期血清ですべて2+〜3+の抗体価が認められ,この事件もSRSVに起因する集団急性胃腸炎と判断した。

 SRVによる集団下痢症については,既知の下痢症起因菌が検出されない場合に対応するケースが多く,検体の採取が遅れがちである。今後,疫学調査の結果を迅速にキャッチし,SRVが疑われる場合には早急に対応する必要のあることを痛感した。



大分県衛生環境研究センター 帆足 喜久雄,渕 祐一
大分県竹田保健所      田島 義久
大分県日出保健所      金只 登
福岡県衛生公害センター   大津 隆一


表1.発症日別有症者数
表2.主要症状(有症者877名)
表3.潜伏時間
表4.主要症状





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