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Vol.13 (1992/1[143])

<国内情報>
下水からのウイルス検出−大分県


 ウイルス性疾患の流行における初発患者や最終患者を把握することは現実にははなはだ困難である。従って,ウイルス性疾患の流行のはしりや終息が予測できるような被検材料があれば,その有用性は誠に高いものと考えられる。このような意味で,患者または一時的キャリアーから排泄された原因ウイルスが流入するであろう下水を対象としてウイルスの検出を試みた。

 被検材料としての下水は1986年4月から1989年3月までの3年間,2週間に1回の割合で終末処理場へ流入直前のものを対象とし,ウイルス分離にはHeLa,BGM,Vero,およびRD-18S細胞を使用した。

 1986年4月から1989年3月までの3年間298検体についてウイルス検索を行ない,189株(63.4%)のウイルスが検出された。

 下水から分離されたウイルスのうち,ポリオウイルス1,2,3の各型が4月および10月に分離されたが,大分地域では小児に対するポリオウイルス生ワクチンの投与が4月第1週〜第2週と10月の第1週〜第2週に一斉に行われたので,分離ウイルスは生ワクチン由来のウイルスと考えられた。コクサッキーB群ウイルス1〜6の各型は6月〜9月に集中して多く分離されたが,全体的に年間を通じ長期間,しかも連続的に分離され,その分離ウイルスは毎年異なっていた。その他,エコーウイルスとアデノウイルスが検出された。

 一方,この期間中の感染症サーベイランス事業における患児からは多数のウイルスが検出されているが,コクサッキーB群ウイルスによる感染症が7月から9月にかけて集中発生し,エコーウイルスによる感染症の発生が同様に7月から9月に見られている。これらの病原ウイルスは小児間に流行がおこる前,あるいは同時期に下水からも同型のウイルスが検出されている。

 下水からのウイルス分離に際して,コクサッキーA群ウイルスやエンベロープを有するウイルスが分離できなかったが,被検材料の処理に問題があるのか,ウイルス分離に使用する細胞に問題があるのか,あるいは,下水中で既にウイルスの不活化がおこっているのか不明である。

 腸管系ウイルスの感染は不顕性に終ることが多く,下水からのウイルス検出がすぐにウイルス性疾患の流行を裏付けるものではない。下水中には多種類のウイルスが混在しており,流行しているウイルスであっても分離されない場合があり,また,培養細胞への感受性の違いにより分離されるウイルスも限られることが考えられる。また,検体中にエンテロウイルスが存在する場合,同ウイルスの増殖が速いためにアデノウイルスやエンベロープを有するウイルスが隠されてしまうことも考えられる。そのため,詳細なウイルス性疾患の流行状況を把握するには,一般住民の抗体保有状況や環境中でのウイルスの生態などの要因も含めた解析と地域住民の感染症について十分な情報を得ることが重要であり,これら総合的な情報に従って被検材料の採取,細胞系の選択などの対策をたてる必要がある。



大分県衛生環境研究センター 小野 哲郎


月別のウイルス検出状況





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