HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.13 (1992/3[145])

<特集>
百日せき 1989〜1991


 日本における百日せきは3〜4年ごとに発生を繰り返しながら減少してきたが,1975年のワクチン接種中断,およびその後のワクチン接種率の低下によって患者数は著しく増加した。その後ワクチン接種率の回復,さらに1981年の改良ワクチン採用によって患者数は再び減少した(図1)。

 感染症サーベイランス情報の百日せき様疾患年間患者報告数によると,一定点当たり報告数は,1982年の12.59から1985年の4.38まで減少し,1986年に6.01とやや増加したのち再び減少を続け,1989年には2.06とこれまでの最低の発生となった。その後1990年は3.83,1991年は4.15と患者発生はやや増加傾向にある(図2)。百日せき3〜4年ごとに増加することが指摘されているので,今回の増加もこのパターンによるものと説明されよう。

 患者の年齢は1歳以下が半数を占め,1989年は47.4%,1990年は54.4%,1991年は56.3%であった。患者発生数の多い年に1歳以下の比率が高いことは,この年齢群でワクチン未接種者が多いことを反映していると思われる。また,相対的に10歳以上の占める割合がわずかではあるが増加傾向にある(図3)。

 百日せき様疾患患者の週別発生は,1982〜83年は4〜5月と8〜9月にピークがみられたが,その後患者発生が減少するとともにピークはなくなり,8〜9月に小さな山を残すのみとなった(図4)。

 地研・保健所から報告された百日咳菌の月別検出状況によると,1989〜91年の検出のピークは9月に見られた(図5)。地研・保健所報告による年別百日咳菌検出数は,1986年20,1987年46,1988年14,1989年36,1990年125,1991年101で,1990年および1991年に増加がめだった。この傾向は患者数の増加と一致している。

 表1は病原微生物検出情報に報告された地研・保健所および医療機関で集計された百日咳菌の検出数を,報告機関別に示したものである。1990年は9県市の地研・保健所から125株が,12県市の医療機関から100株の検出が報告された。また,1991年は12県市の地研・保健所から101株,10県市の医療機関から53株が検出された。この成績は百日咳菌がほぼ全国的に散布していることを示している。

 1989年以降「厚生省予防接種研究班」の「百日せきの疫学とワクチンの有効性の評価に関する研究(班長・磯村思无愛知衛研所長)」が開始され,百日咳菌の分離が積極的に行われるようになった。この研究班は菌分離を指標として百日せきワクチンの有効性を評価することを目的としたもので,菌分離は全国20の地研が,分離菌の同定−型別は予研が担当している。この研究班でこれまでに得られた結果から,菌が分離された百日せき患者の95%はワクチン接種歴のない小児であることが明らかにされた (本月報参照)

 図6は,1990年度厚生省伝染病流行予測調査による百日咳抗原に対する抗体保有状況を,ELSAによる陽性率で示したものである。百日せきワクチン接種歴別に抗LPF-HAおよび抗F-HAの分布を比較した場合(図6−1),接種者群(T期2回以上)がいずれの年齢でも高い保有率を示した。また,接種歴別に抗体価の分布を比較すると(図6−2),T期1回およびこれ以上の接種者群ではいずれもほとんど同じパターンとなり,ワクチンの接種効果が示された。どちらの抗原でも同様の成績が得られている。



図1.年別百日せき罹患率(厚生省伝染病統計)
図2.百日せき様疾患年間患者報告数(感染症サーベイランス情報)
図3.百日せき様疾患患者年齢分布の年別比較 1982〜1991年(感染症サーベイランス情報)
図4.百日せき様疾患患者発生状況(感染症サーベイランス情報)
図5.百日咳菌月別検出状況(地研・保健所集計)
表1.報告機関別百日咳菌検出数 1990および1991年
図6.百日咳菌抗原に対する抗体陽性率のワクチン接種歴による比較 精製抗原LPF−HAとF−HAに対するELISA(厚生省流行予測調査 1990年)





前へ 次へ
copyright
IASR