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1980年代初めから,欧米など先進諸国でSalmonella choleraesuis serovar Enteritidis(S.Enteritidis)で汚染された鶏卵による食中毒の流行が問題となっている。わが国でも,S.Enteritidisは1989年に検出数が急増して以降,1992年10月まで毎年大規模発生がみられている。本特集ではわが国におけるサルモネラの発生状況をS.Enteritidisを中心に解析する。
1991年のわが国におけるサルモネラ食中毒は事件数159(前年129),患者数10,234(同8,303)で,ともに1990年を上回った。とくに患者数は細菌性食中毒の30.9%を占め,従来の腸炎ビブリオを抜いて第1位となった(表1)。
病原微生物検出情報で取り扱う病原菌のうち,地研・保健所において最も多く検出されるのはサルモネラである。1991年の検出数は5,500で,病原菌検出報告数の38%を占めた。検出数の多かったサルモネラ上位血清群O7,O9,O4,O8について1980年以降の検出数の推移をみると,O4群およびO8群の減少傾向とO7群およびO9群の増加傾向がみられる。とくにO9群は1989年の急増後,流行を続けている(図1)。
表2に1987〜1991年にわが国で分離された血清型上位15を示した。1989年以降S.Enteritidisが首位を占めた。1980〜1988年のS.Enteritidisの検出数は平均208,多い年でも267で,1989年の検出数1,347は従来の5倍以上である。1991年の血清型上位15のうちO9群はS.Enteritidisのみなので,O9群の急増はS.Enteritidisの流行を反映している。
図2にサルモネラO9群の月別検出数を示した。1989年は9月,1990年は11月に発生のピークがあったが,1991年は6月に旅館での給食を原因とするファージ型4による広域集団発生をみたため,発生の山は6月と10月の2峰性となった。1992年については10月までを暫定数で示した。4〜5月にM食品会社の鶏卵加工品を原因とするファージ型4による広域,大規模の集団発生をみたため,8〜10月の山と2峰性を示した。1992年10月までに病原微生物検出情報に報告されたサルモネラによる集団発生事例数は62で,そのうちS.Enteritidisによる件数は47(76%)を占め,S.Enteritidisの流行が1992年も続いていることを示している。そのうち鶏卵の関与が推定される事例は約1/3であった。
S.Enteritidis食中毒のうち,1989年〜1992年10月までに発生した180件の分離株および1988年以前の17件の分離株についてファージ型別試験を実施し,ファージ型を指標として年次別に発生の推移を見た(表3)。わが国におけるS.Enteritidisのファージ型は1988年までは8型(53%)が主流であったが,1989年には34型が35件中17件(49%)を占め,この年の急増は34型によることが明らかになった。1990年および1991年は,4型による事例がそれぞれ46件中26件(57%),58件中25件(43%)と主流になり,34型による事例はそれぞれ12件(26%),17件(29%)にとどまった。
1992年の流行菌型はひき続き4型で,41件中19件(46%)を占めているものの,34型が4件(9.8%)と大幅に減少し,代わって1型が11件(27%)と急増したのが注目される。
表1.1991年の食中毒発生状況
図1.サルモネラ主要血清群検出数の年次推移(1980〜1991年)
図2.サルモネラO9群の月別検出数(1989〜1992年)
表2.わが国で高頻度に分離されるサルモネラ血清型(1987−1991年)
表3.サルモネラ・エンテリティディスのファージ型分布(集団発生事例数)
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