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Vol.14 (1993/8[162])

<国内情報>
わが国における赤痢アメーバの感染実態


 赤痢アメーバ症の疫学調査において,糞便検査陽性率と血清抗体保有率は異なった意味をもつ。糞便検査陽性率のみ高い集団からは,非病原株(Arch. Invest. Med.,18:60−75,1987)が分離される。この場合,定型的な赤痢アメーバ症患者の発生は稀である。一方,糞便検査陽性率に比して血清抗体保有率が高い集団からは病原株が分離される。このような集団から腸炎や肝膿瘍で発症する者が多く,公衆衛生上の対策が必要である。

 わが国での発生患者は,@男性同性愛行為に関連した感染,A施設収容児の感染,B流行地で感染した輸入例,Cその他に大別できる。表1に患者発生の一般的状況を示す。特異な性生活歴を有するものが多く,性行為に付随した伝播が国内で発生していると推定される。表2に我々が国内の男性同性愛者を調査した結果を示す。臨床症状の有無は未確認であるが,IgG−ELISA法による抗体陽性率は10〜20%であった。抗体陽性例は病原株に感染し,組織内に病変を有する慢性感染者と推定される。なお,欧米でも男性同性愛者を対象に糞便検査を行うと赤痢アメーバが高率に検出される。しかし,こちらは血清抗体が検出されず,非病原株が分離される。

 表3に国内の障害児施設を永倉らが調査した結果を示す。糞便検査陽性率は13%,血清抗体保有率は27%,分離株は主に病原株であった。精神発達障害児には,しばしば「便いじり」の習慣がみられ,これが流行に関与しているものと推測される。

 最後に輸入例も最近目立ってきている。発症例の統計では,東〜南アジアから帰国後数カ月で発症したものが多い。無症状の帰国者を対象とした糞便検査では,主に非病原株が検出される。例えば,青年海外協力隊では帰国直後に糞便検査を行う。赤痢アメーバ検出例の多くは血清抗体陰性で,分離株は非病原株が主体である。なお,病原株は東〜南アジア,南アフリカ,中米に分布し,一部の地域ではアメーバ症が死因の上位に位置する。これに対し,乾燥地帯では一般に患者発生が少ない。

 赤痢アメーバ症患者は伝染病予防法に基づいて隔離・治療されている。しかし,この対策の有効性は疑問である。第1にアメーバ症の大部分は慢性感染に移行し,発症するものは1割以下といわれる。第2に感染源として重要なものは嚢子であり,患者の排出する栄養型ではない。既に述べた通り,わが国には多数の感染者が存在する。根本的な対策は慢性感染者の発見と徹底治療である。



慶應義塾大学医学部 熱帯医学・寄生虫学教室
奥沢 英一,竹内 勤


表1.東日本での赤痢アメーバ症発生状況
表2.男性同性愛者の抗アメーバ抗体保有率
表3.障害児施設におけるアメーバ症流行





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