HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.17 (1996/3[193])

<国内情報>
fluoroquinoloneに耐性を示した赤痢国内例


 症例は江東区在住の86歳の女性である。生来著患なく,海外渡航歴もない。1995年5月21日から1日10回程度の水様下痢が,22日には37〜38℃の発熱があったために,23日から近医の往診によりTFLX 300mg/日およびMINO 100mgと500mlの点滴静注を26日まで受けた。症状の改善がなく,29日に他の病院へ紹介入院となり,FOMの点滴静注とLVFX 600mg/日を服用した。29日に採取した便からShigella flexneri 2aが検出されたため6月1日に東京都立墨東病院感染症科へ送院された。

 入院時(12病日),頻回の下痢のためにおむつを使用,CRP>10.0mg/dl,血清K2.9mEq/l,Alb1.8g/dlと低カリウム,低アルブミン血症が認められた。TFLX 450mg/日,分3,5日を開始し,静脈内輸液と20%アルブミン100mlを3日間使用した。連日便培養を実施し,S. flexneri 2aはTFLX開始翌々日から陰性となったが,最終投与日から連日再排菌した。下痢の改善も認められず,6月9日からFOM 2g/日,分3,7日間の経口投与を開始し,全治した。FOM内服終了後12日間の連日検便により再排菌は認められなかった。入院時分離株に対するMIC(μg/ml)はNFLX 12.5,OFLX 6.25,ENX 100,CPFX 6.25,LVFX 3.13,TFLX 1.56,NA>100,ABPC>100,CP 100,TC 100,KM 3.13,FOM 0.39と,ABPC,CP,TC,NAのみならずfluoroquinoloneにも高度耐性を示した。再排菌株に対するTFLXのMICは1.56から6.25へさらに上昇が認められた。キノロン剤耐性機序の検討として,大腸菌で知られているDNA gyrase sub unit A(gyrA)のキノロン耐性決定領域について塩基配列を決定し,変異の有無を確認したところ,入院時および再排菌株において83番目のアミノ酸であるセリンがロイシンに87番目のアスパラギン酸がグリシンに変異していた。これらは大腸菌の変異と一致しており,耐性化の一因と考えられた。さらに,CPFXの菌体内移行量を測定したところ,再排菌株ではCPFXのみかけの菌体内移行量が入院時分離株に比べて減少しており,ポンプ阻害剤であるカルボニルシアナイドm-クロロフェルヒドラゾン併用時に回復した。すなわち,再排菌株ではDNA gyrase変異に加えてキノロン剤の能動的排泄機構も耐性に寄与していると考えられた。

 本症例の感染経路は不明であった。fluoroquinoloneは,わが国ではCampylobacter腸炎を除いて,赤痢をはじめ多くの細菌性腸炎に第一選択薬剤として繁用され,臨床的・細菌学的に優れた効果を示している。堀内らは1993年に,台湾旅行後の患者から分離されたfluoroquinoloneに低感受性のS. sonnei(SPFX 0.39,CPFX 0.39,OFLX 1.56,NA>100)について報告しているが,fluoroquinolone耐性赤痢の報告は,わが国では本症例が最初である。今後の監視と全国的な疫学調査が必要である。

 本症例は第44回日本感染症学会東日本地方会総会において発表した。



東京都立墨東病院感染症科 村田三紗子 大西健児
東京都立墨東病院検査科 安島 勇
麻布大学環境保健学部 大仲賢二 福山正文
第一製薬創薬第一研究所 田中真由美





前へ 次へ
copyright
IASR