続いて、10月14日にC区の3歳女児(保育園児)が同区のクリニックを受診した。この女児は、10月13日に発症し、腹痛、水様便、血便を呈した。18日にそこでO157:H7(VT1&2)が検出され、福祉保健センターに届出がされた。19日には家族3名の検便を当所で行い、21日に生後11カ月の弟(保育園児)からO157:H7(VT1&2)が検出された。この家族も9月23日に4名で同牧場の搾乳体験をしていた。この家族は29日にも隣市の観光施設で動物との触れあいをしていたが、そこで飼育されていたウシは1頭で、11月2日に便はO157陰性であることが判明した。この2株(図、レーン5、6)のPFGEによる解析結果は、前記ヒト由来株(図、レーン1、2)およびウシ由来株(図、レーン3、4)と同一パターンを示し、この事例も、搾乳体験による感染であることが示唆された。なお、女児らの通っている保育園児と職員の検便124検体についても検査を行ったが、O157は検出されなかった。なお、今回の発症者の1名(図、レーン5)は潜伏期間が20日間と比較的長かった。
10月16日に当該牧場のウシ全47頭について神奈川県の家畜保健衛生所で検査が実施され、11株のO157:H7(VT1&2)が分離された。これら11株の分与を受け、PFGEによる解析を試みた。その結果、 11株のうち1株を除いた10株は前記のウシ由来2株、およびヒト由来4株と同一パターンを示した。
今回の事例は、搾乳体験牛を含むウシ由来12株(12頭)とヒト由来4株、計16株のPFGEによる解析の結果が同一であったことから、搾乳体験による感染が強く示唆された。酪農啓発施設で飼育牛が感染源となった腸管出血性大腸菌による感染事例は、千葉市(IASR 25:302-303, 2004参照)において報告されている。このような事例の発生の把握や感染源の究明には、疫学的調査の重要性とPFGEによる分子疫学的解析の有用性が改めて認識された。
横浜市衛生研究所
武藤哲典 松本裕子 山田三紀子 石黒裕紀子 北爪晴恵 佐々木一也 鳥羽和憲
横浜市健康福祉局健康安全部感染症課