症例:麻疹ウイルス不検出症例の咽頭ぬぐい液および血漿を材料とし、風疹ウイルスの遺伝子検査(RT-PCR)を実施したところ、4例から風疹ウイルスが検出された。4例の詳細は表のとおりである。
症例1は、49歳男性で、フィリピンへの渡航歴(2月2〜12日まで滞在)があった。帰国後2月17日ごろから鼻水・咳等の風邪様症状がみられ、19日に近医を受診し風邪と診断された。その後20日に38℃の発熱、結膜炎症状、全身に発疹がみられたため、21日に再度近医を受診し麻しんが疑われた。当所で麻しんの遺伝子検査を実施した結果不検出であったため、デング熱および風しんの遺伝子検査を実施したところ、風疹ウイルスが検出された。遺伝子解析の結果、1j型に分類され、2004年の日本株より2008年のフィリピン株に近いことから、フィリピンからの輸入例であると推定された。
症例2と症例3は、36歳と15歳の男性で同一家族である。疫学調査の結果、最近の渡航歴はなかった。2人はほぼ同時期に発症し、3月28日に近医を受診し麻しん疑いと診断された。当所で検査した結果、麻疹ウイルス不検出で、風疹ウイルスが検出された。遺伝子解析の結果2B型に分類され、現在世界的に流行している株で東南アジアに多い株であることがわかった。
症例4は、12歳男性で症例2および症例3と同市在住であった。3月31日から頭痛、39℃の発熱がみられ、4月1日に結膜充血、3日に全身に発疹がみられ、4日近医を受診し麻しん疑いと診断された。当所で遺伝子検査を実施したところ、風疹ウイルスが検出された。その後、二次感染例は確認されていない。
まとめ:本県の風しんの届出患者数は、2008年4人(全国303人)、2009年2人(全国147人)、2010年3人(全国89人)、2011年(第18週現在)6人(全国90人)で、昨年までほぼ横ばいで推移していたが、今年は第18週現在で昨年の2倍の届出数となっている。全国でも昨年まで減少傾向を示していたが、今年は昨年の同時期と比較して高い値となっており、風しんの流行が懸念される。
また、今回、麻しん疑い症例から風しんが4例確認されたことから、臨床診断では、風しんが麻しんと診断されていることが稀ではないと思われた。風しんの流行を防ぎ、先天性風しん症候群(CRS)の発生を防止するためには、風しんの早期の診断が重要である。その観点からも麻しん検査診断のスキームに風しん遺伝子検査を加えることは有用と思われた。
さらに、今回海外に由来する遺伝子型が検出されたことから、今後は、患者の疫学調査に加えて、ウイルス遺伝子型の解析も重要であると考えられた。
また、20〜50代の男性には風しんに対する免疫を持たない人が多いことが報告されている(http://idsc.nih.go.jp/yosoku/Rubella/Serum-R2010.html)。今回の患者がすべて男性であったことからも、これら感受性者への対策も必要と思われる。
謝辞:検査にあたりご協力をいただきました国立感染症研究所感染症情報センター第三室長の多屋馨子先生、ウイルス第三部第一室長の駒瀬勝啓先生に深謝いたします。
参考文献
1)「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」平成16年6月, 厚生労働科学研究費補助金新興・再興感染症研究事業分担研究班
2)lASR 27: 104-105, 2006
3)「病原体検査マニュアル」国立感染症研究所・全国地方衛生研究所全国協議会編
茨城県衛生研究所
永田紀子 土井育子 笠井 潔 増子京子 原 孝 杉山昌秀