2009/10シーズンの分離株88株および2010/11シーズンの全分離株121株について、0.75%モルモット赤血球浮遊液を用いてHA価を測定した。その結果、2009/10シーズン分離株の55%は8HAないしは16HAであったが、8HA未満の株も31%みられた。一方、2010/11シーズン分離株では8HA未満の株は79%にのぼり、今シーズンに入って低HA価の分離株の割合が増加したことが明らかになった(図1)。
インフルエンザウイルスでは、ウイルス液を希釈せずに継代をくり返すことによって欠陥干渉(DI)粒子が容易に産生される1) 。そこで、8HA未満と8HA以上の初代分離株各10株について、10-2〜10-4希釈により再継代して得たウイルス液のHA価を測定した。その結果、いずれの希釈列においてもHA価の明らかな上昇がみられないことから(表1)、低HA価はDI粒子の産生によるものではないと考えられた。また、七面鳥、ガチョウ、ニワトリの各血球を用いても継代によるHA価の上昇は認められなかった。
ノイラミニダーゼ(NA)活性が高い株では、HAの測定中に管底の凝集像が消失することがある。そこで上述の20株について、NA活性を抑えるために4℃下でHA価を測定した。その結果、いずれの株も1〜2管のHA価の上昇がみられたが、室温で低HA価だった10株のうちHI試験可能なHA価(8HA)に達したのは3株のみであった。これら3株の抗原性はいずれもワクチン株A/California/7/2009pdm株と類似であった。
HA遺伝子の系統樹解析では、低HA価(2HA以下)の分離株はA197Tのアミノ酸置換を有する分枝を形成した。さらに、このクレードは2009/10シーズン分離株からなるサブクレードと2010/11シーズン分離株からなるサブクレードを形成し、後者はS185Tのアミノ酸置換を伴っていた。
HA蛋白の197番目のアミノ酸はレセプター結合部位の近傍に位置することから、このアミノ酸置換が今回みられたHA活性の低下に何らかの影響を与えている可能性が示唆された2) 。富山県では、2011年の第18週にインフルエンザ患者数が定点当たり0.71人となり、インフルエンザの流行はほぼ終息した。しかし、来シーズン以降も低HA価のAH1pdm09ウイルスが流行株の主流になった場合は、中和試験による抗原解析も検討する必要があると思われる。
参考文献
1) Nayak DP et al ., Structure of defective-interfering RNAs of influenza viruses and their role in interference, p269-317, In Krug RM (ed), The influenza viruses, Plenum Press, New York, 1989
2) Paleas P and Shaw ML, Orthomyxoviridae: The viruses and their replication, p1647-1689, In Knipe DM et al . (ed), Fields Virology 5th ed, Lippincott Williams & Wilkins, a Wolters Kluwer Business, Philadelphia, PA, 2007
富山県衛生研究所 小渕正次 堀元栄詞 小原真弓 岩井雅恵 滝澤剛則 佐多徹太郎