(掲載日 2011/8/30)
<速報>麻しん疑い症例検体から分離された風疹ウイルス―堺市

2012年の麻しん排除宣言に向けて、麻しん疑い症例から麻疹ウイルス遺伝子検出を積極的に行っているが、不検出例が続いている。そこで、臨床的に麻しんが疑われる症例の背景をウイルス感染に焦点を合わせて検索するため、培養細胞によるウイルス分離を試みている。その中で咽頭ぬぐい液を接種したVero-E6 にて細胞変性効果(CPE)様変化が見られた。この培養上清からヒトメタニューモウイルス(hMPV)、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、エンテロウイルスなどの遺伝子検出を試みたが、いずれも検出されなかった。ところが、大阪府内の風しん患者増加の情報から、検体培養上清の風疹ウイルス遺伝子検出を行ったところ、風疹ウイルスの増殖が確認されたので、分離株の遺伝子型について報告する。

材料:2011年1月〜7月31日にかけて麻しん疑い症例で搬入された22症例の咽頭ぬぐい液22検体、尿20検体、合計42検体をhMPVの検出マニュアル(http://www.nih.go.jp/niid/reference/hMPV-manual.pdf)に準じて処理し、ウイルス分離検査に用いた。

ウイルス分離:分離細胞にはVero-E6を用いた。24穴マイクロプレートを使用し、フルシートになった時点でPBS 1mlで洗浄後、分離培養液を各穴に900μl、処理した検体を100μl接種し、34℃でCO2インキュベーターにて培養し、細胞変性を観察した。分離培養液にはイーグルMEM 100mlに10%Fraction V 2mlを混和した液に、Acetylated Trypsin(1mg/ml)を100μl添加した。

ウイルス分離確認:5症例の咽頭ぬぐい液を接種したVero-E6にて、接種後5〜7日目にエンテロウイルス様の小型で円形化した細胞が認められた。このCPE様変化は緩やかに進行し、正常な細胞が混在したままの状態であるため判別は困難であった。しかし、CPE様変化出現から7日経過したところで培養上清からRNA抽出を行い、10-1〜10-5階乗希釈液の風疹ウイルス遺伝子検出を行った。各培養上清の抽出RNAは10-4〜10-5希釈まで風疹ウイルス遺伝子が検出され、ウイルスが分離されたことが確認された。遺伝子検出にはE1P5/E1P8プライマーを用い病原体検出マニュアルに従った。

分離株遺伝子型別:分離株のE1遺伝子領域 739bpを用いた。遺伝子型別解析では、3株が2B型、残り2株はそれぞれ1E型と1j型に分類された。

風疹ウイルスが分離された5症例の臨床症状等と風疹ウイルス遺伝子型を示す(表1)。5症例のうち20代が3例、30代が2例、性別では4例が男性であった。30〜50代男性の風疹抗体保有率が低いことが報告されているが、分離結果からはこれらの年代よりやや若い男性に感受性者がみられた。

大阪府の風しん届出患者数は2008年24人(全国294人)、2009年12人(全国147人)、2010年9人(全国90人)であったが、2011年は第31週までに41人(全国278人)と増加をみている(倉田ら)。堺市においても、2008〜2010年までは年間1〜2人で推移していたが、2011年は第31週までで6人と増加している。遺伝子型では2B、1E、1jと少なくとも3遺伝子型の風疹ウイルスが感染に関与していた。風疹ウイルスの伝播は多様で、届出数以上の感染拡大の可能性が推測される。型別解析では堺市を含む大阪府内での遺伝子型は、検体数が少ないが、多くは2Bで、東南アジア等の流行国と一致した遺伝子型が検出された。麻しんと同様に輸入感染の可能性は否定できない。このような観点から、風疹ウイルスの分離、遺伝子型解析は風しん感染予防対策には重要である。

加えて、集団発生や先天性風しん症候群(CRS)の発生をなくすためにも、予防接種率のさらなる向上を推進しなければならない。

謝辞:風疹ウイルス遺伝子型別に当たり、ご指導いただきました国立感染症研究所ウイルス第三部の森嘉生先生に深謝いたします。

 参考文献
IDWR 17・18: 15-19, 2011
病原体検出マニュアル 国立感染症研究所・全国地方衛生研究所全国協議会編

堺市衛生研究所
内野清子 岡山文香 三好龍也 西口智子 吉田永祥 田中智之
堺市感染症情報センター
沼田冨三


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