患者情報:2011年9月7日(第36週)に横浜市A区の通所型障害者福祉施設(通所者27名、職員23名)において、インフルエンザA型と診断された患者が複数保健所に報告された。5名の患者からうがい液と鼻かみ検体を採取し、インフルエンザウイルスの検索を行った。Real-time RT-PCR法による遺伝子検出では5名全員(うがい液2件、鼻かみ検体4件)からAH3亜型ウイルスのHA遺伝子が検出され、分離培養検査では4名(うがい液4件、鼻かみ検体2件)からAH3N2ウイルス(1名はヘルペスウイルス1型との重感染)が分離された(表1)。
ウイルス抗原性解析:分離されたAH3N2ウイルス4株の抗原性について、国立感染症研究所から配布された2010/11シーズンキットを用いて赤血球凝集抑制(HI)試験(0.75%モルモット赤血球)を実施した。AH3N2の抗血清A/Victoria/210/2009(ホモ価1,280)に対してはHI価80〜160と低い反応性を示し、AH1N1の抗血清A/Brisbane/59/2007(同640)、AH1N1pdm09の抗血清A/California/7/2009(同1,280)、Victoria系統の抗血清B/Brisbane/60/2008(同1,280)、山形系統の抗血清B/Bangladesh/3333/2007(同1,280)に対してはHI価<10であった。
HA遺伝子系統樹解析:HA遺伝子について遺伝子系統樹解析を行った(図1)。2010/11シーズンに横浜市内で分離されたAH3N2ウイルス株はE62K、N144Kのアミノ酸置換が共通のPerth/16クレードとT212Aのアミノ酸置換が共通のVictoria/208クレードに分かれたが、多くはVictoria/208クレードに分類された。今回の分離株はVictoria/208クレードに入り、データベースより検索した結果、2011年の8月に採取されたFlorida株(A198S、V223I)や5月に採取されたSouth Australia株(S45N、T48I)と共通のアミノ酸置換がみられた。
NA遺伝子解析:患者はすべて抗インフルエンザ薬を投与されていたことからN2遺伝子について薬剤耐性遺伝子の検索を行った。耐性が関与する既知の変異部位(E119V、D151V/N/G、Q226H、G248R、K249E、R292K、N294S)はみられなかった。
その他の遺伝子解析:上記以外に6種の遺伝子(M、PA、PB1、PB2、NP、NS)を部分シークエンスし、他の亜型ウイルスとの遺伝子交雑の有無を調べたところ、すべてヒトのAH3N2ウイルスと相同性が高かった。また、M2遺伝子ではアマンタジン耐性マーカー変異遺伝子(N31S)があった。
今回の集団かぜ事例は成人の集団であったが、海外渡航歴は無く、感染経路は不明であった。また、患者の中には、別の通所型障害者福祉施設(通所登録者39名、スタッフ15名)を利用していた者がおり、その施設でも患者発生があり、最終的に9名がインフルエンザを発症した。両施設とも、施設の臨時休業等の拡大防止策を実施し、それ以上の感染拡大はみられなかった。
横浜市における患者定点医療機関からの報告では、第34週にB区で1件(迅速診断キットでA型)、第35週と第38週にC区でそれぞれ1件(ともに迅速診断キットでA型)が散発的に報告されている。また、第41週にはD区の内科定点で採取された検体からAH3亜型ウイルスが遺伝子検出されていることから、今後の動向が注目される。
ポストパンデミックに入った2010/11シーズンはAH1N1pdm09、AH3亜型、B型ウイルスの混合流行であり、この夏の南半球(夏季)でも3種類のウイルスが混在している1) 。今シーズンも多様な流行像が予想され、冬季に向かいインフルエンザ対策が必要である。
参考文献
1)WHO Influenza Laboratory Surveillance Information
http://gamapserver.who.int/gareports/Default.aspx?ReportNo=5&Hemisphere=Southern
横浜市衛生研究所
川上千春 百木智子 七種美和子 宇宿秀三 森田昌弘 田代好子 飛田ゆうこ 上原早苗 船山和志 水野哲宏
横浜市健康福祉局 椎葉桂子 末永麻由美 岩田真美
横浜市保健所 川瀬早貴 政木辰仁 豊澤隆弘