医療機関で実施されたインフルエンザ迅速診断キットで、A型インフルエンザと診断された3名から採取された鼻汁3検体が当研究所に搬入された(http://www.kenkou.pref.mie.jp/topic/influ/bunri/bunrihyou1112.htm)。
Real-time RT-PCR法による遺伝子検出では全員からAH3亜型ウイルスのHA遺伝子が検出された。MDCK細胞によるウイルス分離においても、すべての臨床検体から初代培養3〜4日で細胞変性が認められた。
このウイルス培養上清液に対して0.75%モルモット赤血球を用いた赤血球凝集(HA)試験を行ったところ、HA価は16〜32を示した。これらの分離されたAH3亜型インフルエンザウイルスの抗原解析と遺伝子解析を実施したので報告する。
国立感染症研究所より配布された2011/12シーズンインフルエンザウイルス同定キットにて赤血球凝集抑制(HI)試験による抗原解析を行った結果、分離された3株は抗A/Victoria/210/2009(H3N2)血清(ホモ価2,560)に対してHI価160〜320を示した。抗A/California/7/2009(H1N1)pdm09血清(同1,280)、抗B/Brisbane/60/2008(Victoria系統)(同2,560)、抗B/Bangladesh/3333/2007(山形系統)血清(同2,560)に対しては3株ともHI価<10であった。
AH3亜型インフルエンザウイルスのHA遺伝子解析では、K158N、N189K、E62K、N144Kのアミノ酸置換を持つPerth/16クレード(代表株A/Victoria/210/2009)と、K158N、N189K、T212Aを持つVictoria/208クレード(代表株A/Victoria/208/2009)の2つに大別されるが、本県で昨シーズン(2010/11)の2011年1〜3月に分離されたAH3亜型インフルエンザウイルス株は、Victoria/208クレードとPerth/16クレードの両クレードが確認されていた。今シーズン(2011/12)県内初発事例(2011年10月下旬)から分離されたAH3亜型インフルエンザウイルス株は、K158N、N189K、T212Aを持つVictoria/208クレードに分類された。さらに横浜市衛生研究所から報告(http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3812.html)された2011年9月上旬のAH3亜型インフルエンザウイルスによる集団かぜ発生事例から分離されたA/Yokohama株と共通のアミノ酸置換(A198S、V223I、S45N、T48I、Q33R、S278K)がみられ、本県のAH3亜型分離株はA/Yokohama株と同一であった。
現在のところ、全国のインフルエンザウイルスの分離・検出報告数(http://idsc.nih.go.jp/iasr/influ.html)はAH3亜型インフルエンザウイルスが優位である。抗原解析の結果において今シーズンのインフルエンザワクチン株との反応性が低い抗原性であったことからも、今後、流行期におけるAH3亜型インフルエンザウイルスの動向に警戒し、感染拡大防止の徹底が必要であり、特に高齢者や乳幼児の重症化には注意が必要である。
さらに、茨城県においてインフルエンザウイルスB型の集団感染も報告(http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3815.html)されていることからもインフルエンザウイルスB型の動向にも注意が必要である。
参考文献
IASR 31: 253-260, 2010
http://idsc.nih.go.jp/iasr/31/367/dj3673.html
三重県保健環境研究所
矢野拓弥 楠原 一 赤地重宏 松野由香里 山寺基子 大久保和洋 永井佑樹 岩出義人 片山正彦
福田美和 中川由美子 高橋裕明 平岡稔 山内昭則 天野秀臣 山口哲夫
三原クリニック 三原武彦
まつだ小児科クリニック 松田 正