9月5日、市内医療機関から当該幼稚園職員20名程度が下痢、発熱などの症状を呈していると堺市保健所に連絡があった。調査の結果、9月3日〜5日にかけて、4日をピークとして118名(園児96名、職員22名)が、下痢、腹痛、発熱等の食中毒症状を呈していることが確認された(図1)。疫学調査の結果、幼稚園では、9月2日の昼食に給食業者で調製された弁当を喫食しており、患者に共通する食事はこの弁当以外にないことや、患者の発生状況などから、この給食業者が提供した弁当を原因とする食中毒と断定し、営業停止処分を行った。
幼稚園のクラス別の発症状況(表1)をみると、教職員の発症は喫食率(80.5%)に一致した高い発症率(66.7%)であった。園児の発症率は教職員に比べて低く、クラスによって差がみられた。また、給食業者はこの幼稚園以外にも同一弁当を提供していたが、他のグループでは同様の苦情はなかった。
当所に搬入された患者糞便 113検体、給食業者の従業員糞便7検体について、RT-PCR法によるNoV 遺伝子検出を行った。その結果、患者40名からNoV遺伝子が検出され(GI/4:34例、GI/3:2例、GI/14:1例、GII/6:1例、GI型別不明:1例、GI/4とGII型別不明1例)、従業員1名からNoV遺伝子(GI/4)が検出された。複数の遺伝子型のNoVが検出されたことから、NoV混合感染事例と考えられた。保存食品の細菌検査では食中毒の原因と考えられる細菌は検出されなかった。
パンソルビン・トラップ法を用いて保存弁当からNoV遺伝子の検出を試みた結果、リアルタイムRT-PCR法によりNoV GIおよびGII遺伝子(食品1g当たりGI:102コピー、GII:46コピー)が検出された。
今回の事例はNoVに汚染された弁当を原因とする食中毒事例ではあったが、教職員と園児、またクラス間で発症率に差がみられ、弁当のNoV汚染の度合が異なっていた可能性が考えられた。従業員1名からNoVが検出されたが、この従業員も弁当を喫食しており、疫学的調査および潜伏期等のウイルス学的考察から、従業員による汚染の有無を含め、弁当の汚染経路を特定することはできなかった。
NoVの食品汚染による食中毒事例では、多数の患者が発生し、大規模な事例になる頻度は高い。これまで原因食材の推定ができても食品からのNoV検出は困難であったが、今回パンソルビン・トラップ法により食品からNoV 遺伝子を本邦で初めて検出することができた。本法は、食品の関与を明確にし、かつ汚染食品の特定を可能とする優れた方法である。さらにこの方法はノロウイルス食中毒予防のための調理施設での衛生管理の徹底をさらに加速させる大きなツールとなると思われる。また、食品取り扱い者の健康管理および衛生意識も連鎖的に高まるものと考える。
堺市衛生研究所
三好龍也 内野清子 西口智子 岡山文香 吉田永祥 田中智之
堺市保健所食品衛生課 瀬尾宗冶 辻本裕貴
堺市保健所 大橋吾郎 藤井史敏
国立医薬品食品衛生研究所 野田 衛
秋田県健康環境センター 斎藤博之