1) 医療圏Aの状況
患者1:11歳男児。2011年12月30日発熱。麻疹ワクチン(MCV)の接種歴無し。患者2:12歳女児。2012年1月2日発熱。MCV接種歴無し。患者1、2は同じ小学校の児童であるが2学期末に同小学校での有症者は確認されていない。患者3:患者2の兄14歳。1月10日発熱。家族内での2次感染例。MCV接種歴は不明。患者4:4歳女児。1月20日発熱・発疹。1回のMCV接種歴あり。患者1〜3の近隣に在住するが濃厚接触を示す疫学情報は無い。他に麻疹IgM陽性を根拠に診断された1、2と同じ小学校に通う患者1名の報告あり。
2) 医療圏Bの状況
患者5:1歳男児。1月29日に発熱。MCV接種歴無し。父(1月20日発熱、麻疹IgM陽性)からの2次感染例。患者6:1歳男児。1月30日に発熱。MCV接種歴無し。患者7:6歳女児。2月3日に発熱。MCV接種歴は不明。患者5〜7は発症日が近いが直接的な接触を示す疫学情報は無い。他に同医療圏より1名麻疹IgM陽性を根拠に診断された患者あり。
患者1〜7より採取された血液、尿、咽頭ぬぐい液を検体として、RT-nested PCR法およびVero/hSLAM細胞を用いたウイルス分離による実験室診断を試みた。PCRの結果、ワクチン接種者以外の患者検体からは1検体を除き搬入された検体すべてで麻疹ウイルスNおよびH遺伝子が増幅され、N遺伝子の増幅産物について塩基配列を決定した。患者由来N遺伝子の部分塩基配列(456bp)はすべて同一であり、系統樹解析の結果、D8型麻疹ウイルスに分類された(図)。この部分塩基配列は千葉県が成田空港内勤者から検出を報告した配列と100%の相同性を示した(図、文献1)。また、患者1、2、5、7由来検体より各々麻疹ウイルスが分離された(中和抗体)。2月14日現在、A医療圏においては他の患者の発生は確認されていないが、B医療圏においては患者発生報告が続いている。
愛知県では、2010年以降毎年輸入麻疹関連症例への対応がなされており、適切な時期に採取された検体が増えて遺伝子検出やウイルス分離率が向上している。今回報告した患者7名中6名はMCV接種歴無しまたは不明で、MRワクチン接種者は4歳(1回)児1名のみであった。ひとたび麻疹が発生するとMCV未接種者間で感染拡大がみられる(文献2, 3)ことが再認識された。日本における常在型麻疹ウイルス遺伝子検出は2010年5月を最後に報告がなく、現状では輸入関連麻疹が主体と考えられる。感染経路の特定に有用な分子疫学的解析の重要性が今後ますます高まると思われる。
参考文献
1)IASR 速報 http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3842.html
2)IASR 31: 271-272, 2010
3)IASR 32: 45-46, 2011
愛知県衛生研究所
安井善宏 伊藤 雅 安達啓一 廣瀬絵美 藤原範子 小林慎一 山下照夫
平松礼司 皆川洋子
豊田市保健所
高木崇光 池田晃一 多和田光紀 加藤勝子 竹内清美