第5セッション インフルエンザ情報と対策
98/99シーズンのインフルエンザ
日本鋼管病院小児科長
 
菅谷憲夫


 今年は(1998-99年のシーズン)、12月から2月初旬まで、A香港型インフルエンザ、A/Sidney/5/97 株が、成人と高齢者を中心に流行し、その後は、B 型インフルエンザが、4月初旬まで、こちらは小児を中心に流行した。今年の(1998-99年)流行は、小児よりも、成人、高齢者が多数罹患したといわれる。実際、救急外来には、発熱した大人と高齢者が殺到し、全国各地で、救急車の出動が記録的な数に達した。全国各地で、病院の内科病棟が満床となり、なかなか入院できないケースも相当あったと聞いている。さらには、人工呼吸器が足りないという騒ぎがおきたことも報道された。学童の罹患者数でみると、全国で80万人前後と報告され、昨年の120万人と比べると約4分の3の患者数であった。成人、高齢者の流行状況の指標の必要性が痛感された。

 現在、予防接種法の改正で、高齢者のインフルエンザワクチンの無料接種、公費負担について検討されている。インフルエンザに対する関心の高まりから、高齢者の接種率は急速に高まりつつある。一方、日本のインフルエンザワクチンの生産は、1997年は80万本、1988年は150万本、さらに今年は300万本の生産が予定され、年々倍増はしているが、今年は、一段とワクチンの供給は厳しい状況となり、不足するのではないかと懸念される。新型インフルエンザ対策もあり、国内メーカーの生産体制の充実は急務である。

 昨年末に、アマンタジンによるA型インフルエンザの治療が承認されたが、国民の抗ウイルス剤に対する願望は驚くほどに強く、100万人近いインフルエンザ患者に処方されたと考えられる。今後は、耐性や副作用の問題があるので、適正な使用法の徹底が重要である。

 今年の1月に、A型インフルエンザの迅速診断キット「Directigen Flu」が発売されたが、臨床医師の関心は高く、すぐに売り切れて入手が困難であった。最近、米国でも、インフルエンザ対策として、迅速診断の有用性が強調されている。迅速診断があると、臨床の現場でのインフルエンザ診断が早くなり、国や地方の流行情報も従来よりも、速報性が要求されるようになると思われる。

 今年の末から、インフルエンザ用の抗ウイルス剤として、A型インフルエンザにも、B 型インフルエンザにも有効な、「neuraminidase inhibitor」 が発売される見通しである。アマンタジンは、問題点として、1)B 型インフルエンザには効果が無いこと。2)耐性のA型インフルエンザが高頻度に出現すること。3)中枢神経系の副作用があるので、広く使用するというわけにはいかない。開発されているのは、zanamivir(GG167)とGS4104である。zanamivir(GG167)は、粉末状となった吸入薬であり、GS4104は経口剤である。これらは、1)A型にもB 型インフルエンザにも有効である、2)耐性の出現がアマンタジンの数十分の一と少ない、3)中枢神経には移行せず、副作用も少ないという特徴を持っている。さらに年内に、A型インフルエンザもB 型インフルエンザも診断可能な、新しいインフルエンザ迅速診断キットも発売の予定である。

 インフルエンザ対策は、もはや、うがい、手洗い、マスクだけですます時代ではない。例えば、毎年問題となっている高齢者の施設での対策は、以下のような対策を実施することが可能である。

1)10-11月に、インフルエンザワクチン接種(職員を含めた)。
2)迅速診断による院内発生の監視。
3)A型インフルエンザ患者が発生したら、隔離の上、アマンタジンによる治療。
4)同時に入所者全員にアマンタジンの予防投与。

今年のシーズンから、インフルエンザワクチン、迅速診断キット、抗ウイルス剤も充実し、インフルエンザの予防、診断、治療が、数年前とは全く異なった、新たな段階に急速に入りつつある。



IDSCホーム

危機管理研修会トップページ