東京慈恵会医科大学 大友 弘士
I.病因 熱帯熱マラリア原虫
三日熱マラリア原虫
四日熱マラリア原虫
卵形マラリア原虫
II. 疫学 地球上の人口の40%が居住する熱帯、亜熱帯地を浸淫
年間罹患者数 3-5億人、死亡者数 150〜270万人
わが国の輸入マラリア 年間 120例前後
毎年熱帯熱マラリアによる死亡例発生
III. 症状
潜伏期:1〜4週間、熱帯熱 <三日熱 <卵形 <四日熱
主要症状 熱発作、貧血、牌腫(全種に共通)
悪性合併症: 脳性マラリア、肺水腫/ ARDS、急性腎不全、肝不全、重度貧血、低血糖、代謝性アシドーシス、出血傾向
(事実上悪性の熱帯熱マラリアに併発)
IV. 診断
標準法 血液塗抹ギムザ染色標本の鏡検、AO法
抗原検出 Dipstick法、ICT Pf/Pf法など
抗体検出 IFA
遺伝子診断 PCR法
V.治療
1) 抗マラリア薬の特性:原虫発育期に特異的な効果を発揮
薬剤の種類により薬物動態パラメータに人種差がある
a)特異的化学療法
病因原虫種、原虫株の薬剤感受性(耐性)、合併症の有無、選択薬の特性を考慮した合理的な投与設計が不可欠
(ア) 発熱抑止療法(熱発作治療):赤内型無性原虫がターゲット。この目的に使用する薬剤を殺シゾント薬と呼ぶ
(1) 合併症のない熱帯熱マラリア(経口療法)
(2) 薬剤耐性熱帯熱マラリア(経口療法)
(3) 重症熱帯熱マラリア(非経口療法)
(4) 三日熱、四日熱、卵形マラリア(経口療法)
(イ) 根治療法(再発防止療法):肝細胞内発育環のヒブノゾイトがターゲットとなり、それを有する三日熱、卵形マラリアが対象になる
(ウ) 抗生殖母体療法(伝播阻止療法):媒介蚊に感染性を有する熱帯熱マラリア原虫の生殖母体がターゲット
b)支持療法
特異的化学療法に併用する救命に必要な対症的補助療法。通常、重症熱帯熱マラリアが対象になる
VI. 抗マラリア療法の実際(成人)
1) 発熱抑止療法
a)標準療法
(ア) クロロキン塩基(ニバキン、アラレン、レゾヒンなど)
1日目初回600mg,6時間後300mg,2日目300mg,3日目300mg(各塩基)投与
☆全種マラリアに対する標準療法である。しかし、熱帯熱マラリアには中米や中近東に分布するものにしか奏効しなくなっている
b)薬剤耐性熱帯熱マラリア
(ア) スルファドキシン/ピリメタミン合剤(S600mg, P15mg=ファンシダール)
3錠単回投与。各地から本剤耐性熱帯熱マラリアが報告されている
(イ) メフロキン(塩酸メフロキン250mg=ラリアム、メファキン)
4錠を単回投与、または6〜8時間間隔で2分服(体重45-70kg)
(ウ) 硫酸キニーネ1.5g, 分3,7 日間。これにテトラサイクリン1g、分4、あるいはミノマイシン200m9,分2,7 日間併用
(エ) アーテスネート(200mg=ブラスモトリム、錠または坐薬)
1日目2錠、2〜5日目1 錠内服。これに上記 (イ) を追加すれば、さらに治癒率が高くなる
(オ) アトバコン/プログアニル合剤(A250mg, P100mg=マラロン)
1日1 回4 錠を3日間
C) 重症熱帯熱マラリア
(ア) ニ塩酸キニーネ10mg/kgを5%ブドウ糖液(または生理食塩水)に溶解し、4時間かけて点滴静注。必要に応じ8〜12時間毎に繰り返す。
最近はグルコン酸キニーネも開発されたが、その場合は用法・要領が異なる。
(イ) アーテメサー(80mg/A= アーテメセリ注)
1日目160mg、分2、2〜5日目80mg筋注。これにメフロキン療法を追加
2) 根治療法
(ア) プリマキン(15mg塩基、プリマキン)
1日1 回1 錠を14日間投与
3) 抗生殖母体療法
(ア) プリマキン塩基
1日1 回1 錠(15g塩基)の14日間投与が標準療法
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