感染症情報センター地域保健平成13年度危機管理研修会



予防接種 −最近の話題と問題点−

国立感染症研究所感染症情報センター
多屋 馨子

はじめに
 日本における定期予防接種の種類は、ポリオ、BCG、DPT、DT、麻疹、風疹、日本脳炎の7種類8疾患であり、さらに任意接種として、水痘、おたふくかぜ、インフルエンザ、B型肝炎(一部母子感染予防事業)、A型肝炎、狂犬病、ジフテリア、破傷風、肺炎球菌、黄熱、コレラ、ペスト、ワイル病秋やみのワクチンがそれぞれ接種されている。世界的にはこれら以外にインフルエンザ桿菌、髄膜炎菌、腸チフス、ライム病のワクチンが接種されているが、我が国においてはまだ使用が認められていない。今回の研修会では、日本で接種が認められているワクチンの内、麻疹、風疹、水痘、インフルエンザに関する知見と、日本で接種が認められていないワクチンの世界における現状について文献的考察を含めて報告する。

今日のテーマ
・日本の小児定期接種ワクチン
・その他日本で接種可能な任意接種ワクチン
・日本で接種が行われていないワクチン
・麻疹
・風疹
・インフルエンザ


■日本の小児定期接種ワクチン

厚生省予防接種副反応研究班(磯村班) 予防接種リサーチセンター
平成11年度接種率

ポリオ 86.3%
DPTT期 82.3%(I期初回1回目)
DTU期 72.5%
麻疹 77.1%
風疹 62.5%(<90カ月),49.0%(中学生)
日本脳炎  69.7%(I期)


その他日本で接種可能な任意接種ワクチン

破傷風トキソイド・・・1968年からDPTワクチンが定期接種になったが、それ以前の年齢の者は受けていないことが多いので、特に海外渡航に際しては薦められる。
A型肝炎ワクチン・・・日本では16歳以上のものが対象である。
肺炎球菌多糖体ワクチン・・・2歳以上で肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高いものに接種。2歳以下の小児では抗体上昇が悪いので接種対象には含まれない。
狂犬病ワクチン・・・狂犬病常在国への旅行者及び滞在者や狂犬病の研究に従事するもの、医師、獣医師、検疫関係者、野犬捕獲員、動物取扱者などに使用。
黄熱ワクチン・・・予防効果高くイエローカードの有効期間は接種後10日目から10年間。卵アレルギー者には注意が必要。生ワクチンのため妊婦には禁忌。
コレラワクチン・・・有効期間が短く効果も50?60%と低い。
ワイル病秋やみワクチン・・・水田に入る年齢に達したものなどに行う。流行の兆しがあれば臨時に接種。
ペストワクチン・・・WHOは流行地や患者と密接に接触する医療従事者や、野生動物やペットなどから感染する機会の多いヒトなどに限定した使用を推奨。

日本で接種が行われていないワクチン

MMRワクチン
    1989年4月から接種が開始されたが、無菌性髄膜炎の多発により1993年4月末接種が見合わせられる。Merck社のMMRワクチンの治験が行われる。
腸チフスワクチン
 以前に腸チフスパラ混合ワクチンが使われていたが、副反応が強く中止。経口弱毒生腸チフスワクチン、Vi多糖体ワクチンが開発されているが、我が国ではまだ使えない。
インフルエンザb菌結合型ワクチン
 欧米では小児の通常予防接種スケジュールに組み入れられている。
髄膜炎菌ワクチン
  A群単独、C群単独、AC群混合、ACY及びW-135混合ワクチンがあるが、我が国では使われていない。

麻疹
 平成12年度感染症流行予測調査事業から得られた結果をもとに日本の麻疹抗体保有状況ならびにワクチン接種率に関して解析した。7−11ヶ月児の76.2%、1歳児の44.2%、2歳児の13.2%が麻疹感受性者であった。その他の年齢についても同様に検討した結果と日本の人口と照らし合わせると、0歳児の50万人、1歳児の53万人、5−9歳時の40万人、10歳台の33万人、20歳台の43万人、30歳台の8万人、40歳台の8万人が麻疹感受性者となり、現在の日本の麻疹流行状況を考える上で、極めて重要である。この調査におけるワクチン接種率(78.6%)と、厚生労働省予防接種研究班磯村班が発表している定期接種年齢児におけるワクチン接種率(77.1%)はほぼ同じ値であり、本調査における1歳児のワクチン接種率は50.0%と極めて低い値であった。ワクチン接種者における抗体価の減衰は10−19歳群以外認められなかった。高齢者における検討では、60歳台で一部抗体価の減弱が推測されたが、70歳以上において抗体価の減弱は認められなかった。

風疹
 同様に感染症流行予測調査事業から得られた結果をもとに解析した。
 幼児期に風疹ワクチンの接種を受けても、年齢が進むに連れて抗体価が低下し、陽性率も低下することが判明した。風疹ワクチンを受けなかった人は、20歳位までに約90%が自然感染により抗体を獲得した。
 風疹の大流行が起こらなくなった近年では、抗体を獲得しないまま成人になる人が増加し、将来先天性風疹症候群の子供が生まれる可能性が高まっている。個別接種になったため、中学生での接種率が激減したことが問題である。先天性風疹症候群予防のためには、10代のうちに予防接種で確実に免疫を獲得しておくことが重要である。

インフルエンザ 
 政府は2001年2月20日の閣議で、予防接種法の一部を改正する法律案を決定し、国会に提出した。改正の内容は、インフルエンザを予防接種の対象疾病(二類疾病)に追加し、健康被害が出た場合に公費による救済を行なうというもので、現行の対象疾病は一類疾病として、類型化される。この案が国会で承認されれば、10月1日から実施される予定である。また、海外においては基礎疾患を有する小児に対してインフルエンザワクチン接種が推奨されているが、日本においてはまだ小児に対する明確な接種基準に関する提案がなされていないのが現状である。そこで、大阪大学医学部付属病院小児科ワクチン外来をインフルエンザワクチン接種を希望して受診した1歳から15歳までの基礎疾患を有する小児306名(アレルギー154名、神経39名、心臓35名、腫瘍30名、血液・免疫14名、染色体異常12名、健康12名、消化器7名、その他4名。)における検討を行なった。現行のワクチンは重症化予防に有効であるが、低年齢児の抗体反応は十分とはいえず、接種量、接種方法を含めて検討が必要であると思われた。1999/2000年シーズンはA Sydney 株に対する反応のみ有効であるという誤解が生じるため注意が必要である。罹患調査、年齢別抗体陽性転率についても併せて報告する。

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