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麻 疹


麻疹とは・麻疹ウイルスについて
疫 学
麻疹の臨床症状
麻疹の合併症
異常な経過をとる麻疹
麻疹の予防接種
有効性、副反応
現在および今後の問題点
引用文献


【麻疹とは・麻疹ウイルスについて】

 強い感染力を有する急性熱性発疹性疾患であり、ヒトを自然宿主とする。
 原因ウイルスである麻疹ウイルスはParamyxovirus Morbillivirus 属に属し、直径100〜250nmのエンベロープを有する一本鎖RNAウイルスである。リンパ節、脾臓、胸腺など全身のリンパ組織を中心に増殖し 1)、リンパ球減少、免疫抑制が認められる。1993年、麻疹のレセプターは補体調節蛋白であるCD46(membrane cofactor protein : MCP)であると同定された2)3)。CD46は赤血球を除く全てのヒト細胞に発現しており、サルでは非常に良く似たホモローグが赤血球にも認められ、ヒトとサルにしか感染しない麻疹ウイルスの種特異性や、麻疹ウイルスによるサル赤血球の凝集反応をよく説明すると考えられたが、リンパ組織指向性を説明するための他の理由が必要であった。2000年Tatsuoらにより麻疹ウイルスのレセプターがリンパ組織に特異的に発現する膜蛋白であるSLAM(signallin lymphocyte activation molecule ; CDw150)であることがNatureに発表され 4)、麻疹の発症病理が解明された 5)。麻疹ウイルスの分離は従来ヒト腎細胞やVero 細胞を用いて行われてきたが、細胞変性効果が出現するまでに数週間を有し、盲継代を必要とした。ところが1990年、国立感染症研究所の小船博士らがマーモセットのB細胞をEpstein-Barrウイルスでトランスフォームした細胞株であるB95-8細胞から接着細胞であるB95a細胞を樹立し、麻 疹ウイルスの分離が高率にかつ早ければ24時間以内に可能であることを報告した 6)。感染症研究所ウイルス製剤部で実施した遺伝子解析の結果、現在日本で流行しているウイルスは、WHOの遺伝子型分類によるD3およびD5タイプが主流であることがわかった 7)
 ウイルス粒子には6つの構造蛋白が存在し、3つはウイルスRNAとコンプレックスを形成し、他の3つはエンベロープに存在する。エンベロープ蛋白のうち、F(fusion)蛋白とH(hemagglutinin)蛋白がその病原性に大きくかかわっており、F蛋白はウイルスと宿主細胞の膜融合を引き起こし、宿主細胞へのウイルスの侵入を可能にすることが知られている 8)。1980年代の流行から始まったH遺伝子の変異は1990年代になってF遺伝子に及んでいる。最近の流行ウイルスは1950年代の流行ウイルスとの間にH遺伝子で50〜60塩基(アミノ酸では16〜18カ所)、F遺伝子では30〜33塩基(アミノ酸で2〜3カ所)に置換が起こっている。H蛋白、F蛋白は感染防御抗体を作らせる蛋白なので、これらの部位での変異を注視する必要がある。幸い、現在までのところ現行ワクチンによる感染防御効果には変化は見られない 8)

 ウイルスは熱、紫外線、酸(pH<5)、アルカリ(pH>10)、エーテル、クロロホルムによって速やかに不活化される。空気中や物体表面では生存時間は短い(2時間以下)。基本的に飛沫を介するヒトからヒトへの感染で、飛沫核感染(空気感染)も重要な感染経路である。本邦では通常春から夏にかけて流行する(Fig.1)。感染性は非常に高く、感受性のある人(免疫抗体を持たない人)が暴露を受けると90%以上が感染する 7)
Fig1. Reported no. of measles cases per pediatric sentinel, Japan, 2000

【疫 学】

 麻疹は、過去1984年に大きな全国流行があり、1991年にも流行があったがやや小さく、その後大きな全国流行はなかった(Fig.2)1)。しかし、毎年地域的な流行が反復している。感染症発生動向調査では国内約3,000の小児科定点から麻疹患者数は年間11,000人から22,000人の報告があり、実際にはこの10倍以上の患者が発生していると考えられる。この中で2歳以下の罹患が60%以上を占めており(Fig.3)、罹患者の95%以上が予防接種未接種である。重症例の例数の統計はないので不明確だが、1998年から1999年における沖縄での流行から推定すると 23)、肺炎の合併が年間4800例、脳炎は年間55例、死亡例は年間88例程度と考えられる。2001年は当初より高知県、奈良県、九州地方などで流行がみられ、3月に入って北海道でも患者数が急増し、過去5年間と比較して定点当たり報告数がかなり多い状態が続いている。2001年第1週から第24週までの累積患者数は24,615(昨年同期12,885)、性別内訳は男13,350、女11,265とやや男性に多い。累積積報告数の年齢階級別では、1歳未満3,389(うち6カ月未満319)、1歳5,512、2歳2,502、3歳1,799、4歳1,542、5〜9歳5,522、10〜19歳3,873、20歳以上476となっている。また、平成11年度から全国約500の基幹病院定点より成人麻疹(18歳以上)の患者発生が報告されているが、2001年は過去3年間で最も多い報告数となっている。これらの症例は、多くは入院を要するような比較的重症例であると考えられる。2001年第1週から第24週までの成人麻疹累積報告数は549(昨年同期215)、年齢階級別で多いのは、20〜24歳(200)、20歳未満(142)、25〜29歳(129)などである 9)。発症予防には麻疹ワクチンが有効だが、国内での麻疹ワクチン接種率は80%程度にとどまっていると推定される。


【麻疹の臨床症状】

 麻疹ウイルスはカタル期の麻疹患者の咳の飛沫、鼻汁などを介して気道、鼻腔および眼の粘膜上皮に感染する。麻疹ウイルスの感染様式はおおよそ以下のように推定される。感染後2〜4日間、ウイルスは気道粘膜上皮の局所で増殖し、さらにリンパ球、マクロファージなどに感染して所属リンパ節に運ばれそこで増える。ウイルスはその後白血球に感染したままで血流中に入り第一次ウイルス血症をきたす。この時期ウイルス感染はまだ侵入門戸付近に限られているが、やがて全身の網内系リンパ節に広がり第二次ウイルス血症を生じる。ウイルスは単球・リンパ球に感染して血流中を移動し、臨床症状が出現する 11)(Fig.4)。伝染力が強く、初感染時には不顕性感染はなく必ず発症し、一過性に強い免疫不全状態を生じる点が問題である。
 その後通常発熱は若干低下するかのようにみえるが、再び高くなるとともに発疹が出現する。発疹は斑丘疹で、毛髪線から始まり、顔面、頚部に出現し、その後遠心性に手足に向かって広がる。5〜6日持続した後、出現したのと同じ順序で消退し、あとに色素沈着を残す。ツベルクリン反応減弱などの細胞性免疫能の低下と、それに伴った細菌の二次感染による合併症、結核の顕性化が認められる 21)。約30%の患者が一つ以上の合併症をおこすと言われている。合併症は5歳以下あるいは20歳以上で多い。下痢が患者の8%、中耳炎が7%、肺炎が6%におこると報告されており、肺炎はウイルス性のことも重複感染による細菌性のこともある。脳炎が1,000例に1例程度報告されており、死亡率は約15%で、後遺症が25%に残るとされている。肺炎・脳炎の合併は年少であるほど死に至る危険性が高いので注意が必要であり、感染を予防することがもっとも重要である。
 また、麻疹ウイルスの持続感染によると考えられている亜急性硬化性全脳炎(SSPE)が麻疹患者の100万例に5〜10例おこると言われている。進行性の神経症状、痴呆症状を示し、最終的には死に至る予後不良の疾患であるが、米国では麻疹ワクチンの普及により激減した。

<前駆期(カタル期)>
 感染後に潜伏期10〜12日を経て発症する。この時期は前駆期(カタル期)とよばれ、38℃前後の発熱が2〜4日間続き、倦怠感があり、不機嫌となり、上気道炎症状(咳嗽、鼻漏、くしゃみ)と結膜炎症状(結膜充血、眼脂、羞明)が現れ次第に増強する。

乳幼児では消化器症状として下痢、腹痛を伴うことが多い。発疹出現の1〜2日前頃に頬粘膜の臼歯対面に、やや隆起し紅暈に囲まれた約1mm径の白色小斑点(コプリック斑)(写真1)が出現する。コプリック斑は、特異的診断価値があるが、発疹が出現する約2日前に出現し発疹出現後2日目の終わりまでに急速に消失する。また口腔粘膜は発赤し、口蓋部には粘膜疹がみられ、しばしば溢血斑を伴うこともある 10),12),14)
写真1. コブリック斑


<発疹期>
カタル期の発熱が1℃くらい下降した後、半日くらいのうちに再び高熱(多くは39.5℃以上)が出る(2峰性発熱)とともに、特有の発疹 写真2), 3), 4)が耳後部、頚部、前額部より出現し、翌日には顔面、体幹部、上腕におよび、2日後には四肢末端にまでおよぶ。発疹出現は、ウイルス曝露のおよそ14日後である。発疹が全身に広がるまで、発熱(39.5℃以上)が3〜4日間続く。発疹ははじめ鮮紅色扁平であるが、まもなく皮膚面より隆起し融合して不整形斑状(斑丘疹)となる。指圧によって退色し、一部には健常皮膚を残す。融合性があり、発疹は次いで暗赤色となり、出現順序により退色する。発疹期にはカタル症状は一層強くなり、特有の麻疹様顔貌を呈する 10),12),14)

<回復期>
発疹出現後3〜4日間続いた発熱も回復期にはいると解熱し、全身状態、活力が改善してくる。発疹は退色し色素沈着がしばらく残り、僅かの糠様落屑がある。カタル症状も次第に軽快する。7〜10日後には合併症のないかぎり回復する 10),12),14)

患者の気道からのウイルス分離は、前駆期(カタル期)の発熱時に始まり、発疹出現時を最高として次第に減少し、第5〜6発疹日以後(発疹の色素沈着以後)は検出されない。この間に感染力をもつことになる。予防のための医学的隔離期間は発疹出現後5日までとされている10),12),14)。また、麻疹は学校保健法による第二種伝染病に分類され、出席停止期間の基準は、解熱した後3日を経過するまでである 15)


【麻疹の合併症】

(1)肺炎:麻疹の二大死因は肺炎と脳炎であり、注意を要する。

<ウイルス性肺炎>病初期に認められ、胸部レ線上、両肺野の過膨張、瀰漫性の浸潤影が認められる。また片側性の大葉性肺炎の像を呈する場合もある 8)
<細菌性肺炎>発疹期を過ぎても解熱しない場合に考慮すべきである。抗生物質により治療する。原因菌は一般的な呼吸器感染症起炎菌であるStreptococcus pneumoniae, Haemophilus influenzae, Streptococcus pyogenes, Staphylococcus aureus であることが多い。
<巨細胞性肺炎>成人の一部あるいは特に細胞性免疫不全状態時にみられる肺炎である。肺で麻疹ウイルスが持続感染した結果生じるもので、予後不良であり、死亡例も多い。発疹は出現しないことが多い。本症では麻疹抗体は産生されず長期間にわたってウイルスが排泄される。発症は急性または亜急性である。胸部レントゲン像では、肺門部から末梢へ広がる線状陰影がみられる 8)、16)

(2)中耳炎:麻疹患者の約5〜15%に合併する最も多い合併症の一つである。細菌の二次感染により生じる。乳幼児では症状を訴えないため、中耳からの膿性耳漏で発見されることがあり注意が必要である。乳様突起炎を合併することがある。

(3)クループ症候群:喉頭炎および喉頭気管支炎は合併症として多い。麻疹ウイルスによる炎症と細菌の二次感染による。吸気性呼吸困難が強い場合は気管内挿管による呼吸管理を要する(13)。

(4)心筋炎:心筋炎、心外膜炎をときに合併することがある。麻疹の経過中に一過性の非特異的な心電図異常が半数以上に見られるとされるが、重大な結果になることは稀である 8)

(5)中枢神経系合併症:1000例に0.5〜1例の割合で脳炎を合併する。発疹出現後2〜6日頃に発症することが多い。髄液所見としては、単核球優位の中等度細胞増多を認め、蛋白レベルの中等度上昇、糖レベルは正常かやや増加する。麻疹の重症度と脳炎発症には相関はない(16)。患者の約60%は完全に回復するが、20〜40%に中枢神経系の後遺症(精神発達遅滞、痙攣、行動異常、神経聾、片麻痺、対麻痺)を残し、死亡率は約15%である 12)

(6)亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE):
麻疹ウイルスに感染後、特に学童期に発症することのある中枢神経疾患である。知能障害、運動障害が徐々に進行し、ミオクロニーなどの錐体・錐体外路症状を示す。発症から平均6〜9カ月で死の転帰をとる進行性の予後不良疾患である 8)、12)、17)。発生頻度は麻疹罹患者の10万例の1人、麻疹ワクチン接種者100万人に1人である。発病までの期間は、麻疹罹患例で平均7年を要し、麻疹ワクチン接種例では平均3年で発病する。麻疹ウイルスの中枢神経系細胞における持続感染により生じるが、本態は不明である。麻疹初感染時の症状はほとんどが軽症で、その後もウイルスのM(matrixa)蛋白、H(hemagglutinin)蛋白、F(fusion)蛋白の発現に欠損が認められる欠損ウイルス粒子として存在し続ける 12)in situ reverse transcriptase-PCR (in situ RT-PCR) により、麻疹ウイルスRNAが患者のneuron、astrocyte, oligodendrocyte,血管内皮細胞に検出されるという報告がある 18)。診断は、麻疹の既往歴があること、血清中の麻疹抗体価(HI、CF抗体価)の異常高値(>1:1280)、髄液中の麻疹抗体の存在により、容易である 8)、12)、13)


【異常な経過をとる麻疹】

<修飾麻疹(Modified measles)>
 不完全な免疫をもち麻疹ウイルスが感染した場合に軽症の不全型麻疹を発症することがある。潜伏期が14〜20日に延長し、前駆期症状は軽いか欠落し、コプリック斑は出現しないことが多い。発疹は急速に出現するが、融合することはない。通常合併症はなく、経過も短い 12、13、14)。要因としては、母体由来の移行抗体が残っている乳児や、ヒトγ-グロブリンを投与された場合、また最近では麻疹ワクチン接種後数年を経過するに従い抗体が低下したために麻疹に罹患するSecondary vaccine failure (SVF)も修飾麻疹の経過をとることがある。

<異型麻疹(Atypical measles)>
 現行の麻疹ワクチン接種以前に、生ワクチンの発熱率が高く、不活化ワクチンと併用されていた時期があった。不活化ワクチン接種2〜4年後に自然麻疹に罹患した際に異型麻疹がみられることがある。4〜7日続く39〜40℃台の発熱、肺炎、肺浸潤と胸水貯溜、発熱2〜3日後に出現する特徴的な非定形発疹(蕁麻疹様、斑丘疹、紫斑、小水疱など、四肢に好発し、ときに四肢末端に浮腫をみる)が主症状で、Koplik斑を認めることは少ない。全身症状は1週間くらいのうちに好転し、発疹は1〜3週で消退する 14)。回復期の麻疹HI抗体価は通常の麻疹に比して著明高値をとる 8、12)。発症機序はホルマリンで不活化された麻疹ワクチンがF(fusion)蛋白に対する抗体(細胞から細胞への感染を予防する)を誘導することができなかったことあるいは不活化ワクチン由来のアレルギーによると推論されている 12)。異型麻疹と修飾麻疹は用語としての定義が異なることに注意されたい。

<重症出血性麻疹(Severe hemorrhagic measles, black measles)>
 数十年前まではよく見られたが最近稀な病態である。突然の発熱、痙攣、譫言、昏迷で発症し昏睡状態に陥る。著明な呼吸不全と皮膚および粘膜に出血疹が認められる。口腔、鼻腔、腸管からの出血は重症でコントロールが困難である。しばしばDIC(disseminated intravascular coagulation)を合併し死亡する 12)


【麻疹の予防接種】

 国内の麻疹ワクチンは、1966(昭和41)年から、不活化ワクチン(K:killed vaccineの略)と生ワクチン(L:live vaccineの略)の併用法(KL法)によって接種が開始された。これは当時のLワクチンが、必発といえるほどワクチン接種後に発熱し、発疹の出現率も高かったためLワクチン接種前にKワクチンを接種することにより発熱の軽減化などが考えられたためである。Kワクチンによって感作された後に自然麻疹に罹患したときに、四肢末端に強い発疹、肺炎と胸膜炎の合併、カタル症状が乏しいなどを臨床的特徴とする異型麻疹の発生が問題となった12),13),14), 20)。また、Kワクチンを先に接種することによりLワクチンによる抗体獲得が見られない場合があり得ることなどから、KLの併用方式は中止となった。1969(昭和44)年以降は高度弱毒生ワクチン(FL:further attenuated live vaccine)の単独接種に切り替えられた 20)。1978(昭和53)年10月から開始された定期麻疹ワクチン接種はFLワクチンが採用されていて、現在我が国で市販されているワクチンは、武田薬品工業のSchwarz-FF8株、北里研究所のAIK-C株、阪大微研のCAM株、千葉血清研のTD97株の4社由来株ワクチンである。Endersの分離したEdmonston株由来のAIK-C株、Schwarz-FF8株と、阪大微研で分離した田辺株由来のCAM株、TD97株をoriginとしており 21)、最終製品はニワトリ胎児胚細胞(CE細胞)で増殖したウイルスを含む培養上清を精製して作られている。これらのワクチンは凍結乾燥品であり、用時添付の溶解液(蒸留水)0.7mlで溶解後、0.5ml(力価5,000TCID50/0.5ml以上)を皮下接種する 21)
 母体由来の麻疹特異IgG抗体があると接種した麻疹ワクチンの増殖が十分でないため、母体由来の抗体がほぼ消失したと考えられる生後1歳以降の児に接種するという国が多い。我が国における現行の予防接種法では、生後12ヶ月から90ヶ月までを接種年齢としており、標準的な実施時期を満1〜2歳の間として1回接種としている。麻疹ワクチン接種は、疾患に罹患した場合の重症度、感染力の強さから考え、接種年齢に達した後なるべく速やかに接種することが望ましい。例えば、誕生日との関係でポリオの集団接種の時期と重複した場合は、麻疹ワクチンを優先するのが望ましいと考えられる。生後6カ月以降は母親由来の免疫が減弱するため、麻疹流行期や保育園などで集団生活をしている場合は1歳以前にワクチンを接種することが勧められる。ただし、この場合の接種は定期接種ではなく、任意接種として有料で実施することになる。いずれにしても1歳前に接種を受けた場合は1歳以降に再接種(この場合は定期接種として実施)をする必要がある。その理由は乳児期後期まで母親からの移行抗体が持続している場合があり、その場合はワクチンウイルスが母親の免疫で中和されてしまうため十分な抗体が産生されない可能性があるためである。
また、γグロブリンを投与された後は、6カ月未満の乳児と同様の理由で効果が得られないため、3ヶ月間は接種を行わない。川崎病などの治療で大量療法を受けた場合は6ヶ月間あける必要がある 20,21)
 米国においては12カ月〜15カ月ににMMRワクチンを接種した後、4〜6歳に2回目のMMRワクチンを接種することが推奨されている。2回目の接種を受けていない場合は11〜12歳で2回目を受ける。このスケジュールで麻疹の征圧にほぼ成功しており、年間患者発生は100名未満であり、発症者はほとんどが輸入例で日本からの輸入例も多く、日本は麻疹輸出国として問題である。


【有効性、副反応】

 ワクチンによる免疫獲得率は95%以上と報告されており、有効性は明らかである。1997年度厚生省感染症流行予測調査事業による麻疹PA抗体保有状況(Fig.5)によると、各年齢層での麻疹抗体保有率は、ワクチン接種を受けていないものは10才頃までに麻疹抗体を獲得し、維持するようになる。これに対して、ワクチン接種を受けている者は、20〜29才の年齢層で低い抗体価を示しているものの、今のところ免疫の持続は良好である。
 副反応に関しては、1998年度の厚生省の予防接種後健康状況調査報告書によると、接種後28日までに初発した発熱は22.7%にみられ、そのうち38.5℃以上であったものは13.2%であった。このうち接種後6日までの発熱は7.4%、38.5℃以上は4.1%であった。最も頻度の高い7〜13日目の発熱は11.4%であり、うち38.5℃以上は6.3%であった。発疹は8.8%(うち6日以内は2.8%、7〜13日目は4.7%)に認められる。いずれも軽症でありほとんどは自然に消失するが、けいれんが0.4%の頻度で認められ、このうち85%は熱性けいれんであった。対策としては熱性けいれん既往者に対しては、予防としてあらかじめ抗けいれん剤(例:ジアゼパム坐剤)を処方しておき発熱性疾患罹患時に行う方法と同じ方法で予防することが可能である。ゼラチン含有ワクチンを使用していた頃はゼラチンによるアナフィラキシーショックなどの症状を呈することがあった。このゼラチンアレルギーが問題となって以降、武田薬品は1996年12月(lot H701)から、阪大微研は1998年11月(lot ME-15)から、千葉血清は1998年6月(lot C4-1)からゼラチン・フリーとなった。北里研究所は1998年7月(lot M19-1)から低アレルゲン性ゼラチン(プリオネクス)に変更した。また蕁麻疹、接種部位の発赤、クインケ浮腫等のアレルギー反応も認められ、最近では接種後数時間から翌日に出現する発熱あるいは発疹などの遅延型のアレルギー反応の報告が散見される。蕁麻疹の発症は3.0%に認められ、即時型アレルギー反応と考えられる1日以内の蕁麻疹を認めたものは0.4%であった。ごく稀に(100〜150万接種に1例程度)脳炎を伴うことが報告されているが、麻疹に罹患したときの脳炎の発症率に比べると遙かに低い。SSPEの発生も米国の追跡調査ではワクチン既往のない自然麻疹患者では100万人あたり5〜10人であるのに対し、ワクチン接種者では0.5〜1人と1/10の低さである 20, 22)


【現在および今後の問題点】

 麻疹は、多くの途上国では現在の小児の罹患と死亡を減らすため、すでに罹患数を減少させてきた国々では患者数をゼロあるいはゼロに近づけるため、麻疹対策を強力に進めている。WHOでは麻疹をポリオに次ぐ根絶の目標にすべきかどうかということについて、議論が重ねられている。麻疹に対する根本的治療法がないのは過去も現在も同じであるが、麻疹には効果、安全性の優れているワクチンがある。
 小児に対するワクチン接種が90%を越える国は発展途上国を含めて多くなりつつあり、欧米では年間数10例程度の発生にまで対策が進んでいる国が増加している。我が国でも麻疹ワクチン導入後その数は著しく減少したが、大流行にまでは至らないものの、ワクチン接種率の低い地域を中心にした地域的な流行がいまだに全国で繰り返され、死亡例を含む重症患者の発生も少なからず見られている。我が国の小児へのワクチン接種率は最近ようやく全国平均で80%に達したが、地域によっては50-60%と低い状況にある。我が国での麻疹の流行は中途半端に抑制された状態であるといえる。そのため、麻疹に感染することもなく、麻疹ワクチンの接種も受けていないまま成長した成人の間での麻疹(成人麻疹)の増加も目立っている。
 世界の多くの国が麻疹対策に積極的に取り組んでいる中、年間10万人規模の患者数の発生が推計される我が国の状況は、麻疹に関しては後進国であると言わざるを得ない。麻疹潜伏期間中に日本を離れた日本人海外旅行者が現地で発症し、周辺に大きな迷惑を及ぼした事例も毎年のように報告され、日本は麻疹の輸出国であるとの不名誉な指摘も受けている。
 1歳以下への麻疹ワクチンの接種、成人を含む定期接種年齢を超えた7歳半以上の年代への麻疹ワクチン接種、あるいは小児への麻疹の2回接種など、麻疹対策として医学的にとり得る方法はいくつか考えられる。しかし我が国における現在の制度を活用しかつ有効な方法としてとることができる現実的な方法は、1歳の誕生日を過ぎた子どもたちになるべく早く麻疹ワクチン接種を行い、1歳児の麻疹ワクチン接種率を向上させ、まず麻疹の全体数を抑えることである。
 今後の問題点としては、ワクチン接種を受けたにもかかわらず抗体が減弱していくため感染発症するSecondary Vaccine Failure(SVF9)の増加、妊婦麻疹およびそれに関連する新生児麻疹の発生、流行地域への旅行時の罹患・再罹患などが考えられる。さらに、麻疹ウイルスの抗原変異が進み、現行の麻疹ワクチンによる効果が減弱することも将来の問題として考えておかなくてはならない。
 これらの問題を早い時期に解決するためには、第一段階としてワクチン接種率の向上(95%以上の達成が必要)によって麻疹の流行そのものをコントロールし、さらに第二段階として適当な時期に麻疹ワクチンを追加接種することにより免疫能を高く且つ長期的に維持する必要性があげられる。またこれと平行し、麻疹ワクチンの改良、開発のための研究を進めることも重要である。


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