2001/02シーズン前インフルエンザHI抗体保有状況調査速報
−第1報−

(2001年11月5日現在)

 厚生労働省感染症流行予測調査事業では、都道府県ならびに都道府県衛生研究所と協力して、予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。インフルエンザについては、本年度もインフルエンザ流行シーズン前における一般国民の抗体保有状況(感受性調査)を調査している。ここでは、速報として報告されたデータから年齢群別抗体保有状況について掲載する。

 本年度のインフルエンザHI抗体測定には、次の4抗原が使用された。このうち1、2、3が今シーズンのワクチンに使用されている株と同じである。

 1. A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)
 2. A/Panama(パナマ)/2007/99(H3N2)
 3. B/Johannesburg(ヨハネスバーグ)/5/99(山形系統株)
 4. B/Akita(秋田)/27/2001(Victoria系統株)

 2001/2002シーズンワクチン株選定の経緯については、感染症発生動向調査IDWR週報(当センターホームページ上にも掲載)「平成13年度(2001/02シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株の選定について」1を参照いただきたい。

 インフルエンザ情報については、インフルエンザQ&A 平成13年度版(平成13年11月改訂版)2に今年の予防接種法改正の内容などを盛り込んで詳しく紹介されている。また、IDWR2001年通巻第3巻第44号の「感染症の話」はインフルエンザであり、疫学、病原体、臨床症状、病原診断、予防・治療に関して詳しい解説がなされているのでこれからのシーズンに有用である3
調査結果および考察
 2001年(平成13年)11月5日現在、北海道、山形、長野、福島、秋田、静岡、神奈川、佐賀、高知、熊本、奈良の11県から合計2,653検体分の調査成績が寄せられた。

 年齢群別の検査数は、抗原によっては1例少ない群があるが、概ね0-4歳:277例、5-9歳:272例、10-14歳:250例、15-19歳:278例、20-29歳:356例、30-39歳:315例、40-49歳:269例、50-59歳:272例、60歳以上:264例、年齢不明100名(現在確認中)であった。

A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)に対する抗体保有率
有効防御免疫の指標と見なされるHI抗体価40以上の抗体保有率は、5-19歳では約30-50%であったが、0-4歳群では20%以下、20歳以上の年齢層ではすべての年齢層で10%以下と極めて低い。今年のワクチン株3株の中ではこの株に対する抗体保有率がもっとも低い(図1上段)。

A/Panama(パナマ)/2007/99(H3N2)に対する抗体保有率
5-19歳の若年層ではHI抗体価40以上の抗体保有率は、約50-80%と高かったが、その他の年齢層では20%前後と低い。(図1下段)。

B/Johannesburg(ヨハネスバーグ)/5/99(山形系統株)に対する抗体保有率
5-19歳の年齢層ではHI抗体価40以上の抗体保有率は、約40-60%であったが、その他の年齢層ではいずれも30%以下と低い。特に0-4歳群と40歳以上で保有率が低い(図2上段)。

B/Akita(秋田)/27/2001(Victoria系統株)に対する抗体保有率
本株は、山形系統株である今年のワクチン株B/Johannesburg/5/99と異なり、Victoria系統株である。今年初めに秋田で分離されたこと、今年のワクチン株とは系統が異なることから調査対象株となった。この株に対するHI抗体保有率は、全年齢層で極めて低い(図2下段)。
コメント
 2000/2001シーズンの流行はA型インフルエンザウイルス(H1N1)(以下A/ソ連型)、A型インフルエンザウイルス(H3N2)(以下A/香港型)、B型インフルエンザ(以下B型)の混合流行(分離株比率 2:1:2)であったが4、流行の規模は例年に比して小さく、流行開始時期が遅かったこと、夏季にもA/香港型及びB型が分離されていたこと(5,6,7,8,9)が特徴である。

 今シーズンは既に仙台10、名古屋11からA/香港型およびB型の分離報告がなされている。 仙台で分離されたA/香港型はHI試験の結果から、 抗原性が2001/02シーズンのワクチン株A/Panama/2007/99(H3N2)と異なる可能性が示唆されており注意が必要である。

 昨年度と比較すると抗体保有率はワクチン株3株ともわずかに上昇しているもののまだ十分とは言えない(図3)。成人層、特に高齢者層は保有率が低く、多くの高齢者がワクチン接種を積極的に受ける必要性があると考えられる。

 A/ソ連型は、乳幼児期と特に20歳以上のすべての年齢群で極めて低いため今シーズンも引き続き警戒が必要である。

 A/香港型は、A/ソ連型同様、昨年度より抗体保有率の上昇は認められたものの20歳以上の成人および高齢者層では十分とは言えないことなどから、ワクチン接種によって高い抗体価を獲得することが必要である。

 B型については、今年度のワクチン株 B/Johannesburg(ヨハネスバーグ)/5/99に対する抗体保有率は0-4歳群ならびに40歳以上の年齢群で全年齢層に渡って低いことから、ワクチン接種によって高い抗体価を獲得することが必要である。

 B/Akita(秋田)/27/2001に対しては全年齢層で極めて低い抗体保有率であり、夏季に分離されていたB型インフルエンザがこの株と同系統に属するVictoria系統株であったことから(6, 7, 8, 9)、このウイルス類似株の動向には注意が必要である。
参考文献
1) 田代眞人
平成13年度(2001/02シーズン)インフルエンザHAワクチン製造株の選定について
IASR 2001; 22(9): 217-219
2) 国立感染症研究所感染症情報センター、厚生労働省健康局結核感染症課、日本医師会感染症危機管理対策室
インフルエンザQ&A 平成13年度版 (平成13年11月改訂版)
3) 感染症の話「インフルエンザ」
IDWR 2001; 3(44): 8-12
4) 小田切孝人、西藤岳彦、斉藤利憲、伊東玲子、中矢陽子、板村繁之、渡邊真治、今井正樹、金子睦子、田代眞人
2000/01シーズンインフルエンザウイルス流行株の解析
IASR 2001; 22(10): 252-259
5) 宮城朝光、下地実夫、本成充、平良勝也、中村正治、糸数清正、久高 潤、安里龍二
非流行期(8月)におけるA(H3)型インフルエンザウイルスの分離例-沖縄県
IASR 2001; 22(10): 251
6) 清水英明、奥山恵子、平位芳江、池田宏
非流行期に分離されたVictoria系統のB型インフルエンザウイルス-川崎市
IASR 2001; 22(7): 167-168
7) 武田積代、飯塚節子、糸川浩司、田原研司、板垣朝夫、穐葉優子
流行末期に中学校集団かぜからB型インフルエンザウイルス分離-島根県
IASR 2001; 22(7): 168
8) 下地実夫、本成充、平良勝也、中村正治、糸数清正、久高潤、安里龍二
非流行期のB型インフルエンザウイルスの検出-沖縄県
IASR 2001; 22(7): 168-169
9) 亀山妙子、三木一男、山西重機
夏季に入って分離されたビクトリア系統のB型インフルエンザウイルス-香川県
IASR 2001; 22(8): 198
10) 岡本道子、千葉ふみ子、伊藤洋子、近江彰、西村秀一、貴田岡節子
10月におけるA(H3)型インフルエンザウイルスの分離-仙台市
IASR 2001; 22(11): 289
11) 後藤則子、神岡直美、加藤敏行
2001/02シーズン直前におけるB型インフルエンザウイルスの分離例-名古屋市
IASR 2001; 22(11): 289-290

国立感染症研究所 感染症情報センター 予防接種室
国立感染症研究所 ウイルス第1部 呼吸器系ウイルス室

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