|
|||
2002/03シーズン前インフルエンザHI抗体保有状況調査速報 −第1報− (2002年10月20日現在) |
|||
|
|||
厚生労働省感染症流行予測調査事業では、都道府県ならびに都道府県衛生研究所と協力して、予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。インフルエンザについては、本年度もインフルエンザ流行シーズン前における一般国民の抗体保有状況(感受性調査)を調査している。ここでは、速報として報告されたデータから年齢群別抗体保有状況、近年3年間の年次比較について掲載する。 本年度のインフルエンザHI抗体測定には、次の4抗原が使用された。このうち1、2、3が今シーズンのワクチンに使用されている株と同じである。 1. A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1) 2. A/Panama(パナマ)/2007/99(H3N2) 3. B/Shandong(山東)/7/97(Victoria系統株) 4. B/Shenzhen(深セン)/407/2001(山形系統株) 2002/2003シーズンワクチン株選定の経緯については、感染症発生動向調査IDWR週報2002年通巻第3巻第35号および病原微生物検出情報IASR月報10月号(当センターホームページ上にも掲載)「平成14年度(2002/03シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過.」1を参照頂きたい。 インフルエンザ情報については、インフルエンザQ&A 平成14年度版(平成14年11月改訂版)2に詳しく紹介されている。また、IDWR2001年通巻第3巻第44号の「感染症の話」はインフルエンザであり3、IASR月報の12月号は毎年インフルエンザの特集号である。また、当センターホームページ上、トピックスのインフルエンザのサイトには、インフルエンザQ&Aを含め、インフルエンザ総説及び国内情報、インフルエンザ施設内感染予防の手引き、インフルエンザ国内患者発生動向調査、インフルエンザ国内分離状況、インフルエンザ抗体保有状況、インフルエンザ・海外の状況(リンク集)を掲載しており、疫学、病原体、臨床症状、病原診断、予防・治療に関して詳しい解説がなされているのでこれからのシーズンに有用である。 |
|||
調査結果および考察 | |||
採血時期は原則として2002年7〜9月であるが当該シーズンのインフルエンザの流行が終息していることが確実な場合は、この時期以前でも可とする。ただし5月以降であること。 2002年(平成14年)10月20日現在、秋田、熊本、神奈川、高知、山形、福島、富山、静岡、山口の9県から合計2,242検体分の調査成績が寄せられた。 年齢群別の検査数は、0-4歳:261例、5-9歳:238例、10-14歳:232例、15-19歳:231例、20-29歳:312例、30-39歳:305例、40-49歳:222例、50-59歳:214例、60歳以上:221例、年齢不明6名(現在確認中)であった。 A/New Caledonia(ニューカレドニア)/20/99(H1N1)に対する抗体保有率 有効防御免疫の指標と見なされるHI抗体価40以上の抗体保有率は、5-19歳では約40-50%であったが、0-4歳群、20歳代群では20%前後、30歳以上の年齢層ではすべての年齢層で10%前後と低い(図1上段)。 A/Panama(パナマ)/2007/99(H3N2)に対する抗体保有率 5-9歳群の抗体保有率は80%弱で最も高く、その後50歳代まで年代と共に抗体保有率は減少していた。10歳代の抗体保有率は約45-65%であったが、0-4歳群は約30%、20-40歳代群は約20%、50歳代群は約10%と低い。60歳以上群では30%以上の人が抗体を保有していた(図1下段)。 B/Shandong(山東)/7/97(Victoria系統株)に対する抗体保有率 最も抗体保有率が高かった20歳代群でも20%弱であり、15-19歳群と30歳代群で約10%、その他の年齢群では全て5%以下であり極めて低い。0-4歳群、40-50歳代群ではほとんどの人が抗体を保有していない(図2上段)。 B/Shenzhen(深セン)/407/2001(山形系統株)に対する抗体保有率 本株は、Victoria系統株である今年のワクチン株B/Shandong/7/97と異なり、山形系統株である。本株は前シーズンの主流行株とは遺伝的に異なる系統に入る変異株であることから、調査対象株となった。この株に対するHI抗体保有率はワクチン株であるB/Shandong/7/97以上に低く、最も抗体保有率が高かった10歳代群でも約10%、20歳代群で約5%、その他の年齢群でほとんどの人が抗体を保有していない(図2下段)。 近年3年間の抗体保有率を比較すると、A型に関しては昨年度と大きな変化はないが、B型の保有率の低さは両系統株共に際だっている。 A/ソ連型は、抗体保有率のピークが5-9歳群から10歳代群にシフトし、保有率は昨年、一昨年の流行を反映して僅かながら上昇しているもののまだ十分とは言えない。特に成人層、高齢者層は保有率が低い。乳幼児と20歳以上の全ての年齢群で抗体保有率が低いため今シーズンも引き続き注意が必要である(図3上段)。 A/香港型は、昨年度とほぼ同様の抗体保有率であるが、高齢者層に関しては昨年度より保有率は高い。ただし、0-4歳群、20歳以上群については十分とは言えないことなどから、今シーズンも引き続き注意が必要である(図3下段)。 B型については、抗体保有率は極めて低く、全年齢層でほとんどの人が抗体を保有していない状況である。ワクチン接種を積極的に受ける必要性があると考えられる。一方、ワクチン株とは異なった系統の山形系統株に関しても、Victoria系統株以上に抗体保有率が低く、B型インフルエンザの動向に関しては注意が必要である(図4)。 |
|||
コメント | |||
2001/2002シーズンの流行は過去10年間では、1993/1994、2000/2001シーズンに次ぐ3番目に小さな流行で、2000/2001シーズンと同様A型インフルエンザウイルス(H1N1)(以下A/ソ連型)、A型インフルエンザウイルス(H3N2)(以下A/香港型)、B型インフルエンザウイルス(以下B型)の混合流行であった( Aソ連型:A香港型:B型=2:2:1の割合である。)4, 5, 6。また2001/2002シーズンの特徴は、患者から分離されたA型ウイルスはワクチン株ウイルスから変異が見られなかったのに対し、B型ウイルスは5-6月にも集団発生の報告が続き7, 8, 9、これまで主流であった山形系統ではなく、ほとんどがVictoria系統であった。このような経緯から、今年のB型のワクチン株はVictoria系統株になっている。なお、海外で分離が報告されていたA/H1N2型ウイルスが国内でも初めて分離された4, 10。 | |||
参考文献 | |||
1) | 田代眞人 平成14年度(2002/03シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過 IASR 2002; 23(10), 252-253 |
||
2) | 国立感染症研究所感染症情報センター、厚生労働省健康局結核感染症課、日本医師会感染症危機管理対策室 インフルエンザQ&A平成14年度版 |
||
3) | 国立感染症研究所感染症情報センター 感染症の話「インフルエンザ」 IDWR 2001; 3(44), 8-12 |
||
4) | 小田切孝人、他 2001/02シーズンのインフルエンザウイルス流行株の解析 IASR 2002; 23(11), 279-287 |
||
5) | 浅川洋美、他 中学校でのインフルエンザウイルスA(H1)型およびB型の混合流行-山梨県 IASR 2002; 23(4), 92-93 |
||
6) | 岡本道子、他 2002年1月、仙台市におけるほぼ同時期の複数の型および亜型のインフルエンザウイルス[A(H1),(H3),BおよびC型]混合流行の可能性について IDWR 2002; 4(3), 9-11 |
||
7) | 田端康二、他 2002年春における小中学校でのインフルエンザ様疾患の集団発生とウイルス分離状況-熊本県 IASR 2002; 23(7), 171 |
||
8) | 高橋朱実、他 2002年4月以降のB型インフルエンザ流行-岩手県 IASR 2002; 23(7), 171-172 |
||
9) | 鈴木陽、他 仙台市内における3月下旬〜5月にかけてのB型インフルエンザの流行 IDWR 2002; 4(18・19), 6-8 |
||
10) | 川上千春、他 国内で最初に確認されたA/H1N2型インフルエンザウイルスの分離-横浜市 IASR 2002; 23(8), 198-199 |
||
|
|||
国立感染症研究所 感染症情報センター第3室(旧 予防接種室) 国立感染症研究所 ウイルス第3部第1室(旧 インフルエンザ室) |
|||
|
|||
⇒ インフルエンザ速報目次 |