2003/04シーズン前インフルエンザHI抗体保有状況調査速報
−第3報−

(2004年2月4日現在)

 感染症流行予測調査事業は、厚生労働省が実施主体となり、都道府県、都道府県衛生研究所ならびに国立感染症研究所が協力して、定期予防接種対象疾患について各種疫学調査を実施している。
 インフルエンザについては、本年度もインフルエンザ流行シーズン前、ワクチン接種前における一般国民の抗体保有状況(感受性調査)を調査している。ここでは、速報として報告されたデータから年齢群別抗体保有状況、および近年3年間の年次比較について掲載する。

 本年度のインフルエンザ赤血球凝集抑制(HI)抗体測定には、次の4抗原が使用された。
このうち1、2、3が今シーズンのワクチンに使用されている株と同じである。

 1.A / New Caledonia(ニューカレドニア)/ 20 / 99(H1N1)
 2.A / Panama(パナマ)/ 2007 / 99(H3N2)
 3.B / Shandong(山東)/ 7 / 97(ビクトリア系統株)
 4.B / Shanghai(上海)/ 44 / 2003(山形系統株)

 2003/2004シーズンワクチン株選定の経緯については、感染症発生動向調査IDWR週報2003年通巻第5巻第34号および病原微生物検出情報IASR月報9月号(当センターホームページ上にも掲載)「平成15年度(2003/04シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過.」 1を参照頂きたい。

 一般の方々、医療従事者からよくある質問に関しては、インフルエンザQ&A 平成15年度版 2を参照頂きたい。また、IDWR2001年通巻第3巻第44号の「感染症の話」はインフルエンザであり 3、IASR月報の昨年11月号 4はインフルエンザの特集号である。また、当センターホームページ上、トピックスのインフルエンザのサイトには、インフルエンザQ&Aを含め、インフルエンザ総説及び国内情報、インフルエンザ施設内感染予防の手引き、インフルエンザ国内患者発生動向調査、インフルエンザ国内分離状況、インフルエンザ抗体保有状況、インフルエンザ・海外の状況(リンク集)を掲載しており、疫学、病原体、臨床症状、病原診断、予防・治療に関して詳しい解説がなされているのでこれからのシーズンに有用である。
調査結果および考察
 採血時期は原則として2003年7-9月であるが、当該シーズンのインフルエンザの流行が終息していることが確実な場合は、この時期以前でも可とする。ただし5月以降であること。

 2004(平成16)年2月4日現在、北海道、秋田、山形、福島、埼玉、千葉、神奈川、新潟、富山、山梨、長野、静岡、愛知、京都、山口、愛媛、高知、佐賀、熊本、宮崎の20道府県から合計4,848検体分の調査成績が寄せられた。

 年齢群別の検査数は、0-4歳:513例、5-9歳:520例、10-14歳:532例、15-19歳:496例、20-29歳:589例、30-39歳:614例、40-49歳:562例、50-59歳:538例、60歳以上:484例であった。

A/New Caledonia/20/99(H1N1)に対する抗体保有率:有効防御免疫の指標と見なされるHI抗体価40以上の抗体保有率は、 5-19歳では48-55%であったが、0-4歳群、 20代、30代、40代、60歳以上群ではそれぞれ20、24、20、19、20%、50代群では約10%と低い(図1上段)。

A/Panama/2007/99(H3N2)に対する抗体保有率:10-14歳群の抗体保有率は約80%で最も高く、その後50代まで年代とともに抗体保有率は減少していた。5-19歳群の抗体保有率は約66-80%であったが、0-4歳群は約27%、20代、30代群はそれぞれ40、38%、40代、50代群はそれぞれ33、31%と低い。一方、60歳以上群では47%の人が抗体を保有していた(図1下段)。

B/Shandong/7/97(Victoria系統株)に対する抗体保有率:最も抗体保有率が高かった20代群でも23%であり、次いで30代、60歳以上群のそれぞれ20、14%、10代群で9-11%、5-9歳群で7%、0-4歳、40代、50代群ではそれぞれ3、8、3%であった(図2上段)。

B/Shanghai/44/2003(山形系統株)に対する抗体保有率:本株は、Victoria系統株である今年のワクチン株B/Shandong/7/97と異なり、山形系統の変異株である。本株は前シーズンの主流行株とは遺伝的に異なる系統に入る変異株であることから、調査対象株となった。この株に対するHI抗体保有率は0-4、5-9、10-14、15-19、40代、50代群ではそれぞれ3、18、30、34、9、4%とワクチン株であるB/Shandong/7/97と同等かあるいは高いものの、20代、30代、60歳以上群ではそれぞれ17、14、5%とB/Shandong/7/97より低かった(図2下段)。

近年3年間の1:40以上の抗体保有率の比較:ワクチン株に関しては60歳以上の抗体保有率が今年度最も高かった。2001年11月にインフルエンザワクチンが定期接種(二類)となり、65歳以上のワクチン接種率が増加したためと考えられる。特にA/Panama/2007/99(H3N2)は近年の流行も重なり2001年度32%、2002年度36%、2003年度(現時点)47%と抗体保有率は徐々に上昇していた。B型の抗体保有率は例年同様A型に比して、低値であった。

A/H1N1(ソ連)型は、過去2年と比較すると全年齢群において最も高いかあるいは同等の保有率を示し、5-19歳群が高く48-55%の抗体保有率であった。しかし、成人層、高齢者層は十分とは言えないことなどから今シーズンも引き続き注意が必要である(図3上段)。

A/H3N2(香港)型は、過去2年と比較すると0-9歳群を除いて、最も高い抗体保有率であった。ただし、0-4歳群、成人層については十分とは言えないことなどから、今シーズンも引き続き注意が必要である(図3下段)。昨シーズンから分離され始めている変異株の動向に注意が必要である。

B型は、ワクチン株であるB/Shandong/7/97については15-19歳群以外過去3年間で最も高い抗体保有率を示したが、全年齢層で十分とは言えず、ワクチン接種を積極的に受ける必要性があると考えられる。一方、ワクチン株とは異なった系統の山形系統株に関しては抗体保有率のピークの年齢層が異なるものの、Victoria系統株と同様に抗体保有率は全年齢層で十分とは言えず、B型インフルエンザの動向に関しては注意が必要である(図4)。
コメント
 2002/2003シーズンの流行は過去10シーズンと比べて、ピークの高さは4番目、定点あたり患者数は3番目に大きい流行で、A型インフルエンザウイルス(H3N2)(以下A/香港型)、B型インフルエンザウイルス(以下B型)の混合流行であり、A型インフルエンザウイルス(H1N1)(以下A/ソ連型)の流行はなかった。また2002/2003シーズンの特徴は、患者から分離されたA/H3N2型ウイルスはワクチン株から8倍以上の変異が認められたウイルスが2001/2002シーズンより多く認められたのに対し、B型ウイルスはほとんどがワクチン類似株のVictoria系統株であった 5。病原微生物検出情報によると、2003/2004シーズンの分離・検出報告数は2004年2月6日現在、AH1型(N未型別)ウイルス:2件、AH1N1型ウイルス:1件、AH3型(N未型別)ウイルス:845件(この他にPCRのみによる検出9件あり)、AH3N2型ウイルス:112件(この他にPCRのみによる検出1件あり)、B型ウイルス:30件(この他にPCRのみによる検出1件あり)である。今シーズンはSARS対策ともあわせて、インフルエンザ対策の強化が強調されている。本速報は今年度の最終報である。
参考文献
1) 小田切孝人 田代眞人
平成15年度(2003/04シーズン)インフルエンザワクチン株の選定経過
IASR 2003; 24(9), 215-217
2) 国立感染症研究所感染症情報センター、厚生労働省健康局結核感染症課、日本医師会感染症危機管理対策室
インフルエンザQ&A平成15年度版
3) 国立感染症研究所感染症情報センター
感染症の話「インフルエンザ」
IDWR 2001; 3(44), 8-12
4) 国立感染症研究所、厚生労働省健康局結核感染症課
インフルエンザ 2002/03シーズン
IASR 2003; 24(11), 281-282
5) 国立感染症研究所ウイルス第3部第1室、WHOインフルエンザ協力センター
2002/03シーズンのインフルエンザウイルス流行株の解析
IASR 2003; 24(11), 283-288

国立感染症研究所 感染症情報センター第3室(旧 予防接種室)
国立感染症研究所 ウイルス第3部第1室(旧 第1部 呼吸器系ウイルス室)

インフルエンザ速報目次