ブタの日本脳炎HI抗体保有状況調査速報
−1999年第7報−

 日本脳炎のヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(コガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。
 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(Hemagglutination inhibition test;HI法)を用いて測定することにより,間接的に日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。

 1960年代までは,毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており,ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくるとの報告もあるが,現在では,日本脳炎ワクチンの普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致していない。近年における日本脳炎患者発生数は毎年数名程度であるが,ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられる。

 本速報は,日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報に注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域においては,予防接種を受けていない人,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。
No. 1999-7 1999年10月1日現在
下記の都道府県における屠畜場のブタの日本脳炎抗体保有率は次の通りである。
  都道
府県
屠畜場
採血月日
検査数 HI抗体
陽性率
(%)
2-ME
感受性
(%)
その他
沖 縄 北部
8月31日
25 92 19 6月29日は25/25(100%)2-ME25%
中南部
8月31日
24 96 64 6月29日は20/25(80%)2-ME80%
宮 崎 宮崎
9月7日
11 64 17  
☆◎ 大 分 大分
9月20日
20 100 0 8月10日採血ブタ20頭中3頭からJEV分離
熊 本 七城
8月30日
10 60 20 8月23日は7/10(70%)2-ME57%
長 崎 諌早
9月16日
20 90 0 8月18日は14/20(70%)2-ME64%
佐 賀 佐賀
9月13日
10 70 29 9月6日は8/10(80%)
福 岡 太宰府
9月7日
10 100 0 8月17日は10/10(100%)2-ME60%
高 知 中村
9月13日
14 100 0 8月17日は10/10(100%)
愛 媛 大洲
9月20日
20 90 6 9月6日は20/20(100%)
香 川 高松市
9月6日
20 100 42 8月16日は20/20(100%)2-ME40%
徳 島 鳴門
9月13日
10 100 0 8月16日は10/10(100%)2-ME30%
  広 島 三次
8月19日
10 0   8月5日は0/10(0%)
島 根 島根
9月10日
10 50 100 9月7日は2/20(10%)2-ME100%
和歌山 8月16日 15 47 29 8月4日は5/7(71%)2-ME0%
兵 庫 西播磨
9月20日
15 80 100 9月7日は5/15(33%)2-ME80%
滋 賀 日野
9月10日
20 65 20 8月27日は11/20(55%)2-ME67%
三 重 松阪
9月14日
10 100 70 9月7日は10/10(100%)2-ME60%
静 岡 西部
9月20日
10 100 13  
  山 梨 石和
8月17日
20 10   陽性の1頭は1:20,8月10日は0/10(0%)
  富 山 新湊
9月21日
20 10 100 9月14日は0/20(0%)
  神奈川 平塚
9月14日
20 0   8月17日は1/20(5%)陽性の1頭は1:20
  東 京 八王子
9月13日
〜16日
50 4 100 9月6日〜8日は0/50(0%)
千 葉
9月27日
20 50 38 9月20日は4/20(20%)2-ME25%
  群 馬 玉村
9月10日
16 0   8月24日は0/16(0%)
  宮 城 仙南
9月6日
8 0    
  岩沼
9月6日
22 5   陽性の1頭は1:20
  角田
9月20日
3 0    
ブタの抗体保有率より日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
その他の情報より日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
    今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が80%を越えた地域
    今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が50%を越え、かつ2-ME感受性抗体が検出された地域
    今シーズンの調査で、ブタの新鮮感染(2-ME感受性抗体)が検出された地域

国立感染症研究所 ウイルス第一部
国立感染症研究所 感染症情報センター

日本脳炎速報目次