ブタの日本脳炎HI抗体保有状況調査速報
−2000年第6報−
　日本脳炎のヒトへの感染は，日本脳炎ウイルスを媒介する蚊（コガタアカイエカ）が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し，その後ヒトを刺すことにより起こる。
　感染症流行予測調査事業では，全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法（Hemagglutination inhibition test；HI法）を用いて測定することにより，間接的に日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し，さらに2-メルカプトエタノール（2-ME）感受性抗体（IgM抗体）を保有している場合，そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。

　1960年代までは，毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており，ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると，約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくるとの報告もあるが，現在では，日本脳炎ワクチンの普及や生活環境の変化等により，ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致していない。近年における日本脳炎患者発生数は毎年数名程度であるが，ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域では，ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられる。

　本速報は，日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報に注意し，日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域においては，予防接種を受けていない人，乳幼児，高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。
No. 2000-6 2000年9月11日現在
下記の都道府県における屠畜場のブタの日本脳炎抗体保有率は次の通りである。
　 都道
府県
屠畜場
採血月日
検査数
HI抗体
陽性率
（%）
2-ME
感受性
（%）
 その他
◎
沖 縄
 北部
8月15日
25
100
0
 　
◎
 中南部
8月15日
25
44
50
 　
◎
鹿児島
 末吉
8月 24日
10
20
50
 8月10日は60%のブタ(6頭/10頭)がHI抗体陽性。陽性ブタ4頭のうち、25%のブタ(1頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
◎
宮 崎
 宮崎
9月4日
11
82
67
 8月28日は82%のブタ(9頭/11頭)がHI抗体陽性。陽性ブタのうち、11%のブタ(1頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
◎
大 分
 大分
8月30日
20
100
11
 　
◎
熊 本
 熊本
9月4日
20
55
55
 8月28日は33%のブタ(8頭/24頭)がHI抗体陽性。陽性ブタのうち、63%のブタ(5頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
◎
長 崎
 諌早
9月5日
20
100
0
 　
◎
佐 賀
 佐賀
9月4日
10
90
0
 8月21日は50%のブタ(5頭/10頭)がHI抗体陽性。陽性ブタのうち、40%のブタ(2頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
◎
福 岡
 太宰府
8月29日
10
100
0
 8月22日は100%のブタ(10頭/10頭)がHI抗体陽性。陽性ブタのうち、10%のブタ(1頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
◎
高 知
 中村
8月21日
10
100
0
 　
◎
愛 媛
 大洲
9月4日
20
85
53
 　
◎
香 川
 綾上
8月28日
20
95
95
 8月21日は85%のブタ(17頭/20頭)がHI抗体陽性。陽性ブタのうち、100%のブタ(17頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
◎
徳 島
 鳴門
8月28日
10
100
100
 　
　
広 島
 三次
8月11日
10
10
100
 　
　
島 根
 島根
8月17日
20
15
 　 陽性ブタ3頭の HI抗体価は1:20以下、7月25日は10%のブタ(2頭/20頭)がHI抗体陽性。陽性ブタのうち、100%のブタ(2頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
◎
和歌山
 8月22日
〜25日
15
73
29
 陽性ブタ11頭中7頭について2-ME感受性を検査。2頭が感受性であった。
　
兵 庫
 西播磨
8月28日
15
0
 　 8月21日の検査でも陰性 (0/15頭)。
◎
滋 賀
 日野
9月8日
20
85
0
 8月25日は100%のブタ(20頭/20頭)がHI抗体陽性。陽性ブタのうち、10%のブタ(2頭)が2-ME感受性抗体を保持していた。
◎
三 重
 松阪
8月23日
10
100
10
 　
◎
静 岡
 西部
9月4日
10
50
50
 陽性の1頭のHI抗体価は1:10、8月24日は20%のブタ(2頭 /10頭)がHI抗体陽性。陽性ブタのうち、100%のブタ(2頭)が2-ME感受性抗体を保持し ていた。
　
山 梨
 石和
8月28日
10
0
 　 8月14日の検査でも陰性 (0/10頭)。
　
富 山
 新湊
9月5日
20
35
50
 8月29日は5%のブタ(1頭/20頭)がHI抗体陽性。2-ME感受性 抗体を保持しているブタは確認されなかった。
　
神奈川
 平塚
8月 22日
20
0
 　 　
　
東 京
 八王子
8月28日
〜30日
50
4
 　 陽性ブタ2頭のHI抗体価は 1:10。
　
千 葉
 旭
8月25日
20
0
 　 　
　
栃 木
 宇都宮
8月28日
20
0
 　 　
　
茨 城
 旭
8月28日
20
0
 　 8月21日の検査 でも陰性(0/20頭)。
　
秋 田
 秋田
8月23日
13
0
 　 8月11日の検査でも陰性 (0/12頭)。
　
宮 城
 仙南
8月28日
29
10
 　 陽性ブタ3頭のHI抗体価は 1:20以下。
◎
 ブタの抗体保有率より日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
☆
 その他の情報より日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
　 　 今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が80％を越えた地域
　 　 今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が50％を越え、かつ2-ME感受性抗体が検出された地域
　 　 今シーズンの調査で、ブタの新鮮感染(2-ME感受性抗体)が検出された地域
国立感染症研究所 ウイルス第一部
国立感染症研究所 感染症情報センター
⇒ 日本脳炎速報目次