ブタの日本脳炎HI抗体保有状況調査速報
−2001年第2報−

 日本脳炎のヒトへの感染は,日本脳炎ウイルスを媒介する蚊(コガタアカイエカ)が日本脳炎ウイルスに感染したブタを吸血し,その後ヒトを刺すことにより起こる。
 感染症流行予測調査事業では,全国各地のブタ血清中の日本脳炎ウイルスに対する抗体を赤血球凝集抑制法(Hemagglutination inhibition test;HI法)を用いて測定することにより,間接的に日本脳炎ウイルスの蔓延状況を調査している。前年の秋以降に生まれたブタが日本脳炎ウイルスに対する抗体を保有し,さらに2-メルカプトエタノール(2-ME)感受性抗体(IgM抗体)を保有している場合,そのブタは最近日本脳炎ウイルスに感染したと考えられる。

 1960年代までは,毎年夏から秋にかけて多数の日本脳炎患者が発生しており,ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延している地域に多くの患者発生がみられた。調査したブタの半数以上が日本脳炎ウイルスに感染していると,約2週間後からその地域に日本脳炎患者が発生してくるとの報告もあるが,現在では,日本脳炎ワクチンの普及や生活環境の変化等により,ブタの感染状況と患者発生は必ずしも一致していない。近年における日本脳炎患者発生数は毎年数名程度であるが,ブタの感染状況から日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域では,ヒトへの感染の危険性が高くなっていると考えられる。

 本速報は,日本脳炎ウイルスの感染に対する注意を喚起するものである。それぞれの居住地域における日本脳炎に関する情報に注意し,日本脳炎ウイルスが蔓延していると推測される地域においては,予防接種を受けていない人,乳幼児,高齢者は蚊に刺されないようにするなど注意が必要である。
No. 2001-2 2001年7月19日現在
下記の都道府県における、調査ブタの日本脳炎抗体保有率は次の通りである。
推定
汚染地域
都道
府県
屠畜場
採血月日
検査数
HI抗体
陽性率
2-ME
感受性
*
今シーズン
初めて
新鮮感染の
確認された
採血日
その他

沖 縄 北部
7月2日
25
16%
(4/25頭)
  5月8日 6月26日は12%のブタ(6頭/25頭)がHI抗体陽性。そのうち1頭は2-ME感受性HI抗体を保持していた。
  沖 縄 中南部
7月2日
25
0%
  6月5日 6月26日は陰性(0頭/25頭)。
  宮 崎 宮崎
7月9日
11
9%
(1/11頭)
     
  大 分 大分
6月29日
20
0%
  6月20日 6月20日は10%のブタ(2頭/20頭)がHI抗体陽性。
  長 崎 諫早
7月10日
20
0%
     
  佐 賀 佐賀
7月10日
10
0%
    7月3日は陰性(0頭/10頭)。
  高 知 中村
7月2日
10
0%
     
  愛 媛 大洲
7月3日
20
0%
     
  奈 良 奈良
7月17日
16
0%
    7月10日は陰性(0頭/20頭)
  三 重 松阪
7月10日
10
0%
     
  富 山 新湊
7月10日
20 0%      
  東 京 八王子
6月18日
〜22日
50 2%
(1/50頭)
0%   5月21日〜24日は陰性(0頭/50頭)。
日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
(今シーズンの調査で、調査ブタにおいて、1:10以上のHI抗体保有率が50%を越え、かつ2-ME感受性抗体が検出された地域)

日本脳炎HI抗体及び2-ME感受性抗体の保有率以外の情報より日本脳炎ウイルス汚染が推定された地域
* 2-ME感受性抗体の検査は、1:40以上のHI抗体価を示した血清について調査した。
    今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が80%を越えた地域
    今シーズンの調査で、ブタのHI抗体保有率が50%を越え、かつ2-ME感受性抗体が検出された地域
    今シーズンの調査で、ブタの新鮮感染(2-ME感受性抗体)が検出された地域

国立感染症研究所 ウイルス第一部
国立感染症研究所 感染症情報センター

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